思い出と距離感
部活が終わって、今日もバニラシェイクを飲みに行こうとマジバへと向う途中で、
とぼとぼと疲れたように、肩を下げながら、歩く女の子に目が止まった。

暗い所為で、いつもより髪の色が濃く見える。
でも、確信があった。

呼びかけると、ゆっくり振り返った。
僕に気付くと、嬉しそうに笑った。
でも、やっぱり、疲れた顔をしていた。

彼女と話していて、バニラシェイクを飲みに行くと伝えると、
何かを思いついたような顔をして、私も行くと言うので、一緒に行くことになった。

(何を考えてるんだろうか。・・・この前のアイスのお礼かもしれない。
苗字さんはよく、ギブアンドテイクが大切だ!と小学生の頃よく言っていた。)

じーっと、観察される様に見つめられて、つい抱きしめたいのかと言ってしまった。
これも、小学生の頃にあったことで。


じーっと、背中に視線が刺さる。

「あと、少しですからね。」
「うん!」

図書委員の仕事で、本を戻していると、彼女はよく本を抱えながら後についてきた。
僕の仕事を手伝いながら、終わるのを待っているのだ。

本を持って、本棚に戻していると、いつものように抱きつかれそうになって、
避けると、えっ・・・と固まってしまった。
本を持っているから、危ないと説明すると、「じゃあ、私も手伝う!」と言ってきた。

でも、僕より背が低い彼女が本を戻せる範囲は僕より少ない。
その結果、彼女の方が仕事量が少ないのだ。

彼女は本棚に足をかけて、戻そうとしたけど、危ないので、止めた。
(けっこう大雑把な所あるんだよな・・・。)

彼女は自分の分が終わると、僕の分を抱えて、サポートをする
僕が当番の日だと、このスタイルが定番になっていった。

「これで、終わりだね!」
「そうですね。」

ラスト一冊を本棚に戻すと、後ろから抱きつかれた。
勢いはなく、寄りかかるように。

「へっへへ〜。テツヤくん、お疲れ様。」
「はい、苗字さんもお疲れ様です。」

ぐりぐりと肩に押し付けてくる頭を撫でてあげると、満足そうに目を細めた。
するすると指通りのよい髪は、撫でているこっちも気分が良い。

「テツヤくんに抱きつくと、落ち着く・・・?っていうのかな。安心するから好き。」
「そうですか。」
「テツヤくん、お母さんみたい。」
「え、お母さんですか・・・。」

(それは、あんまり嬉しくない・・・かも。)

その言葉がどこか残念で、でも安心すると言われたのは嬉しかった。
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