「…名前、何をやっているんだ。」
「あ。…こ、これは、そのッ…!」
いつもより遅く起床すると、嫁はセーラー服を着ていた。
まぎれもない秀徳高校の制服。
彼女は顔を真っ赤にして、口をぱくぱくとさせた。
「……衣替えで整頓してたら、出て来たんです。…懐かしいと思って、まだ着れるかなって思って。」
切り替えが早い彼女は開き直ったように、似合いますか?とふわり、とスカートを揺らし、くるっと回った。
「…はしたない。」
「えっ。」
彼女は元々童顔だから、普通に似合っている。
でも、彼女は童顔を嫌い、普段は化粧で何とか大人っぽくしている。
顔だけを見れば、まだ高校生に見えないことも…ないかもしれない。
(…大坪より、幼く見えるからな。)
…顔はあまり変わらないが、身体つきが完全に変わっている。
高校生だった時よりも、胸は膨らみ、セーラーを押し上げている。
そして、スカートから伸びる脚は細く折れそうだった脚とは違い。
すらりとして、ふくらはぎは細く、太ももは柔らかそうに見える。
全体的に、メリハリがある身体つきになっているということだ。
そんな身体つきにセーラー服はあまり似合わない。
……はしたない。
「……名前、寝室に行くぞ。」
「えっ。」
「ほら。」
彼女の肩を抱くと、彼女はなんで?なんで?と不思議そうな目で俺を見上げる。
それでも、逆らったりはせず、素直についてくる。
…彼女はやっぱり、まだどこか幼い。
もう少し、自分が女だということを自覚した方がいいな。
彼女の職場はおばさんばっかりの事務らしいが。
…でも、やっぱり、こんなに無防備じゃあ心配だ。
それに、彼女は自分の魅力に気付いて居ないしな。
さっきから幼いと言っているが、やっぱり彼女はちゃんとした大人だ。
確かに俺よりは若いが、社会人としての知識はあるし、嫁としてもちゃんとやっている。
…だが、彼女はどこか抜けている。
嬉しいと手を叩く癖はまだなおっていないし、今のように疑問もつのときに相手を見る顔とか。
大人と子供、そして、可愛いと綺麗を持ち合わせる様な子だ。
(…しまった。つい、子とつけてしまった。
彼女が知ったら、怒るだろうな。)
彼女は子ども扱いされることを嫌う。
「仁亮さん?どうしたの?まだ夜じゃないよ?」
制服の所為か彼女は普段の口調ではなく、高校のときの口調に戻っていた。
「名前。」
「はい。」
今度はいつもように答える。
にっこり、笑って俺の答えを待つ、従順な嫁(時々我ままだけれども)。
「…もう少し、大人の女ということを自覚しなさい。」
「…はぁーい、もう制服を着るなんて恥ずかしいコトしませんよぅー。」
子ども扱いされた思った彼女はわざと語尾を伸ばす。
「仁亮さん、そんなに変ですか?そりゃあ、もう、そんなに若くないですけど。」
拗ねた顔で彼女はスカーフを弄る。
「…似合ってる。」
「ほんとですか?やったー!えへへ、けっこう秀徳の制服気に入ってたんですよー!」
彼女はにこにこと笑い、髪結んでみようかなぁと呟き、俺の手から離れタッタッと寝室へ先に向う。
…自分から罠に引っ掛かりに行く彼女に、俺は溜め息をついた。
寝室に入ると、髪の束が揺れていた。
「どうですか?ポニーテールです。夏の時よくポニーテールだったんですよ。覚えてますか?」
前髪はどうだったかなぁ、と言って鏡に向っている。
俺は彼女に後ろから近づく。
昔は何とも思っていなかった。
この髪型。
敢えて言うなら、涼しそうだなぁぐらい。
しかし、今揺れるたびに見え隠れするうなじが妙に色っぽく見えた。
後ろから抱きしめ、うなじにキスをすると、彼女は肩を揺らした。
「ま、仁亮さん!?」
「…お前にはまだ教えることがあったとはな。」
「え?」
「名前。ベットに座りなさい。…いや、横になりなさい。」
「え?だって、仁亮さんまだ夜じゃな」
「授業は普通日中にやるだろう。」
「え?授業?…どうしてベットなんですか?」
彼女は意味が分かりません。と、首を傾げる。
「…名前、ベットの上じゃなきゃ、出来ない授業もあるんだよ。」
俺が耳元でそう囁くと、彼女は密かに目を伏せ頬を赤く染めた。
(彼女は無垢な少女ほど少女でもなく、やはり大人の女性なのだ。)
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