世界にふたり | ナノ
今日の放課後はデート。放課後デートで制服デート。早く放課後にならないかなと携帯で時間を確認すると、覚くんからの連絡を受信していた。“自分の教室で待ってるよー”と書かれた文章。もう授業が終わったのかもしれない。

特進のクラスの授業が終わり、待ちに待った放課後。足早に覚くんのクラスへ行くと、一人机に向かって勉強をしている覚くんがいた。耳にはイヤフォンがついていて、そっと隣に座ってみても気づく様子がない。凄い集中力。真剣な横顔。前に投げ出された長い足。姿勢悪く座った姿がいかにも覚くんらしい。
四角い文字が並ぶノートが懐旧の情をくすぐった。今の私たちが同じクラスだったら、こんな感じなのかな。小学生のときみたいだけど、全然違う。その空気感が眩しくて、なんだか胸が押し潰されそうな感覚になった。それに抗うようにして、覚くんの視界に入りそうな位置をトントンと爪先で叩く。するとゆっくりこちらを向いた覚くんは、目を見開いた。

「えー! いつからいたの!?」
「さっきだよ」
「ウッソでしょ!? 声かけてよー!!」

そう言って項垂れながらも、素早く机の上を片付けていく。「取り戻すヨ! 時間を!」と、手を引かれて教室を飛び出した。

「バスが来るまで後10分くらいあるから、急がなくて大丈夫だよ」
「あ、そーなのー?」

早く言ってよと歩くスピードを落とした。それでも足早にバス停へ向かって、無事にバスに乗って駅まで向かう。その最中、覚くんのポケットからはみ出たイヤフォンが目に入り、私はそれを指差した。

「いつも何の音楽聞いてるの?」
「んー? あ、聞いてみる?」

そう言って差し出された片方のイヤフォンを耳につけると、覚くんはもう片方のイヤフォンをつけた。必然的に近くなる距離。慣れたはずの覚くんの匂いにドキドキする。そんな心音をかき消すように、耳から聞こえてきたのは、初めて聞く疾走感のある曲。

「これ聞きながら勉強して捗るの?」
「実際集中すると曲とか全然入って来ないんだよネ。集中するまで聞くっていうか、寮にいるとこういうの重宝するのヨ」
「なるほど」
「あとロードワークの時とかね」
「それは、……危なくない?」
「アッハハ! 気を付けるー」

知らない曲。初めて知る覚くんのこと。今日でいくつの事を知れるだろうか。たくさん、たくさん知りたい。たくさん知って、知識が増えるみたいに脳に刻んで、私の一部になればいい。


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駅に着き、外を歩くには寒いからと大きいデパートに入った。制服を着た学生がチラホラ見られる。皆考えることは同じなんだな。テスト前に皆がこんなことをしているなんて、私は知らなかった。
二人で適当にいろいろな物を見て、店内を半分くらい歩いた頃に、覚くんがアイスを食べたいと言い出したので飲食店に入った。

「冬なのにアイス食べるんだ」
「ホントはこの時期コタツで食べたいけどネ」
「コタツにアイス?」
「あ! コタツ知ってる!?」
「知ってるよ? うちにはないけど」

ヒェーと言いながらチョコのアイスを食べ進める覚くん。身体が冷えてしまわないのだろうか。店内が暖かいから、平気なのだろうか。そんなことを考えながら、私は温かい飲み物に口をつけた。

「そういえば冬休みの予定は?」

そう聞かれて手帳を取り出し、覚くんへ渡す。

「バレー部の予定書いてよ」

オッケーと言い、先ほど見た四角い文字が私の手帳を黒くする。練習、ミーティング、遠征、大学生と合同練習。今月の予定を書き終わり、ページを捲ろうとしていた手が不自然に止まった。

「今日のとこにデートって書いてある」
「うん。そうだ、覚くんの誕生日書いて」
「俺5月だヨー」

そう言って手帳のページを一枚戻しては、手を止めて私の手帳をまじまじと見た。

「俺と会った日全部書いてあるの?」
「予定兼、日記みたいなものだから」
「付き合った日も書いてんの?」
「うん」
「ヤバイ」
「なにが?」
「ときめいた」

そう言って今日の日付に「サトリときめく」と書かれた。自分の手帳に他人の文字が並ぶのは、異様な光景。けれどずっと眺めていたい手帳に変わった気がした。


「細かいことはまた連絡するネ」

予定を書き終え、私に手帳を返しながら覚くんはそう言った。

「私もそうする。あのさ、会う会わない関係なしに今日の予定教え合わない? 何時に終わったって報告でもいいし。私は知りたいんだけど、どうかな」

今まで覚くんが努力して私に合わせていてくれた。今度は私も二人の時間を作る最低限の努力はしたい。無理に時間をつくることはできなくても、少しの調整くらいはできる。そう思っての私からの提案に、覚くんは凄く驚いた表情をしながらも、頷いてくれた。

「ホントに俺のこと好き、なんだ?」
「え? そうだけど」

驚きというよりは、疑惑や困惑。そういった表情をされた。それはとても違和感のある表情だった。

「それとさ、前に食堂で覚くんが怒っていなくなった事あったじゃない?」
「え? かなり前じゃないソレ」
「覚くんはさ、いつも私に会う努力をしてくれてた。それなのに私は会えるかもしれないのに連絡もしないで、他の男と一緒にいる。そりゃムカつくよね」
「今それ言っちゃうのー!」

そう言ってテーブルに突っ伏し、腕に顔を埋めてしまった。こちらから表情を見ることはできない。

「最近そういうことだったのかなって思って。違った?」

顔をあげることなく「まあ、そんな感じ」と早口で小さな声が返ってきた。

「良かった。じゃーこれで解決ね。仲直り」

なかなか顔を上げない覚くんを覗き見ようと、顔を近づける。何を考えているのだろうか。「本当に好きなんだ」ってどういうつもりで言ったんだろう。その時の表情はどういう意味だったんだろう。
少しだけ開かれた腕の隙間。いつもよりも近い距離で目が合う。その指を伸ばして私の髪を引っ張った。空気が変わった。そう思った瞬間覚くんは顔を上げて立ち上がった。

「そろそろ移動しよ」

いつもと同じ顔。いつもと同じ声色。避けられた? 誤魔化された様な感覚。違和感が残る。この違和感が勘違いであるといい。

「そうだね」

モヤモヤとした気持ち。きっと私の顔にはそれが出ている。けれどそれに気づいているだろう覚くんがなにも言わないのだから、私もきかないでおく。今はまだその時では無いのだと思うから。

心覚えに書きとめて

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