ラッキーガール | ナノ
二年に進級して、隣の席になったのは白布くんとよく一緒にいる川西くん。お互いに「あ」という声が出た。

「ラッキーガールだ」

その言葉にピシャリと身体が固まる。

「川西くん。何を知っているのか想像がついたからそれ以上喋らないで」
「了解」

律儀にも本当にそれ以上川西くんは口を開くことはなくて、平穏な新学期の幕開けだ。しかしそう思えたのは最初だけで、教室の入口に現れた白布くんが波乱を呼ぶ。なぜならこちらに向かって手招きをしているからだ。
私を呼んでいる? と思ったのと同時に川西くんが席を立ったので、死ぬほど恥ずかしくなった。幸い身動ぎしなかったので気付かれてはいないはず。それが救いだ。
恥ずかしくて死ねる。恥ずか死ねると机に伏せていると、立ち上がった川西くんが私の机の端をトントンと指で叩いた。これは私を呼んでいるよねと、視線を上げれば屈むようにして近づく顔。そして耳元で囁かれた。

「賢二郎の今日の下着は黒だったよ」

一瞬何を言っているの理解できなかった。けれど頭の中でリフレインされたのは「白布くんの下着は黒」ってこと。

「は!?」

身を引いて、耳を押さえた私の顔は赤くなっているに違いない。だって顔から煙が出るんじゃないかってくらい熱いから。無意識に見てしまった白布くんと目が合って、どすの聞いた「アァ?」って声が教室に響く。川西くんは何食わぬ顔で教室から出て行った。そしてすぐに教室へ戻ってきて、何事もなかったかのように席につく。

「あの、川西くん」

はいなんでしょうと、淡々とした口調。なんでそう平静でいられるのだ。

「さっきのはどういったつもり、だったのでしょうか」
「あ、賢二郎のパンツの話?」

パンツなんて言うから「違う!」と反射的に言ってしまったが、「違うっけ?」と表情を変えずに続ける川西くんに「……違わない、かもしれない」と言うことしかできなかった。

「見られてばっかじゃんミョウジさん。反撃の狼煙になればと思って」
「その予定はないから大丈夫」
「そう? 賢二郎は色までは教えてくれなかったから、ミョウジさんには気使って色まで教えてあげたのに」

その言葉に開いた口がふさがらない。そんなアホ面を見て「開いてるよ」と自分の口を指差す川西くん。

「ま、なんかあったら相談くらいのるよ」
「……川西くんには絶対頼らない」
「あらら」

初めての表情の変化。川西くんは少しだけ目を細めて、口を緩くカーブさせたのだった。


----


川西くんに、白布くんのパンツの色を暴露されたせいで落ち着かなかった午前の授業。お昼休みに食堂へ行けば、友達が彼氏と食べると言い出して一人での昼食。どこへ座ろうかと、辺りを見渡せばちょうど五、六人の団体がごそっと席を立ったのでそこへ滑り込んだ。

一人でガラリとしたテーブルを独り占め。ゆっくりと箸を進めていると、がちゃりと音を立てて誰かが席へ着いた。斜め前の席。険しい顔をした白布くんである。そんな白布くんのパンツは黒……。
駄目だ。川西くんのせいでまともに見ることができない。あからさまに顔を背けてしまったが、白布くんが何も言ってこないので、それを良いことに無言のまましばらくやり過ごす。けれど何も言わないのもおかしい気がする。挨拶くらいすれば良かった。なら今から何て声をかける? 一人でぐるぐる悩んでいると、先に口を開いたのは白布くんだった。

「おい」

声が低くて目が据わっていて、まるで怒っているようなオーラ。なぜそんなに機嫌が悪いのですか……王子……。

「太一となに話してたんだよ」

そんなことを言われて思い付く話題は一つ。けれどパンツの話なんて言えるわけがない。必要以上に口の中の物を咀嚼し続け、何て言おうかと考える時間稼ぎ。そんな私の行動が彼の神経を逆撫でしてしまったようで、チッと舌打ちされた。怖いです。

「……ラッキーガールって言われた」
「は?」
「白布くんこそ川西くんになに話したの」

パンツの話はしなかったけれど、反撃の狼煙には違いない。よし、言ってやったぞとよくわらぬ達成感に胸をはって見せれば、私の切り返しが想定外だったのかなかなか言葉が返ってこない。そしてなんとも微妙な空気になってしまった。

そんな空気を壊したのは、話題の中心人物である川西くん。「なに? この微妙な距離感」そう言って白布くんの向かえ、つまり私の隣に腰を下ろした。

「なんでそこなんだよ」
「え? 賢二郎の隣に座った方良かった?」

なんで今日は、こう、ついてないと言うか巻き込まれているというか。王子さま白布くんは不機嫌で怖いし。川西くんはよくわからないし。
平穏な新学期はどこへやら。頭を抱えたくなるようなこの場の空気を読まないのか、あえてなのか。川西くんは飄々として口を開く。

「教室でも隣だし、問題ないよね」

なぜか白布くんの鋭い視線がぐさりぐさり。川西くん、お願いだから私に答えを求めないでほしい。しかしまあ、そんなことを言えるはずもなく曖昧に笑って冷えた味噌汁を飲み込んだ。

反撃の狼煙が用意されています

prev | back | next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -