友達のすすめ | ナノ
黄瀬くんとお出掛けをした日。結局あの日は、洋服に食事に全て黄瀬くんがお金を払ってくれた。心苦しい。そこで私はお礼をしようと思う。私の調べによると、近々黄瀬くんは誕生日なのだ。きっと職場の人や友達、ファンの人に祝ってもらうんだろうけど、私も友達なんだから何かしたい。でも何をしたら喜んでもらえるだろうか。
悩みながらレジを叩く。上京したらお洒落なカフェでバイトをするのが憧れだったけど、現実は近場のスーパー。たまにパートの主婦さんがお菓子をくれたり、売れ残りをこっそり店長がくれたり、とてもありがたい職場だ。なにより居心地がいい。私にはこれが合っていると思う。

バイト終わり、冷蔵庫が空なのを思い出して職場のスーパーでお買い物。食材をカゴに入れながら、ぼんやりと黄瀬くんのことを考えた。
黄瀬くんはあんなレストランに行くくらいだから、相当舌は肥えているだろう。ケーキだって飽きるくらい食べるんだろうな。プレゼントはファンの人から沢山もらうだろうし。うん、困った。なにもいい案が浮かばない。
黄瀬くんの誕生日、どうしよう。今日の夕飯、どうしよう。それを交互に悩んでいると、レジ横に陳列された花火が目についた。そういえばパートさんが「花火はまだ早い」って店長に抗議していたな。

「花火か」

なんか、いいんじゃない? 花火って。これはありなんじゃない? だって絶対人と被らないよね?
それからの私の行動は早かった。黄瀬くんに18日の0時に公園へくるよう地図つきで連絡した。


-----


当日、私は打ち上げ花火をスタンバイして待機。主役のご登場をまだかまだかと待っていると、ポケットの携帯が震えた。黄瀬くんからの電話だ。思わず立ち上がって電話に出た。

「も、もしもし!?」
「あ、ナマエ?」
「はい!」
「なんか……元気っスね……」
「うん! 私は元気!」

携帯を片手に、もう片方の腕で力拳をつくる。私は何をしているんだ。何を言っているんだ。

「まあ、いいや。何か彼女から呼び出されちゃって、そっち行けなくなったっス」
「え、……あ! そっか! そうだよね!」
「そうだよね?」
「いや、なんでもないです!」
「そうスか? でもドタキャンとかほんとすんません」
「平気です平気です。黄瀬くん、ちょっと早いけどお誕生日おめでとうございます」
「あれ? 知ってたんスか?」
「へへへー。じゃー切るねー」

黄瀬くんからの返事を聞かずに私は電話を切った。そして静かにしゃがみこむ。地面の砂利を眺めながら、深い溜め息を爪先めがけて吐き出した。
彼女がいたのか! 計算ミス! いや、彼女いるだろう! 黄瀬くんなら! 当日は忙しいでしょうよ! 抜かったなぁ……。ぼーと夜空を見上げた。花火どうしようかな。撤収するかな。そう悩んだのは一瞬。なぜなら私はすっかり花火の気分きなっていたのだ。
せっかくだから計画は実行しよう。そうしよう。本人不在だけれどお祝いしよう。携帯で時計を確認しながら、タイミングよく私は花火に火をつけた。


-----


誰かに通報されないだろうか。内心ひやひやしながらも、暗闇に色を灯す花火に一人小さく歓声を上げた。
どうしよう。一人でも全然楽しい。テンション上がる! 次々と咲く花火。弾けるような音、時々火の粉が熱かったけど、これも醍醐味だ。そうやって深夜の公園でひっそりと花火を楽しんでいると、足音が聞こえてきて、ヤバイ、絶対通報されたと思い慌てて証拠隠滅を図る。火を消して使用済みの花火を入れたバケツにビニール袋を被せた。そんなことをしていると、足音はあっという間に背後に迫っている。あーもう、ダメだ。

「ちょっと! アンタ!」

びっくりした。だって振り向いた視線の先にいたこは、息を切らせた黄瀬くんだったから。

「き、黄瀬くん……。お、お誕生日……」
「そんなことより! 夜中一人で危ないに決まってるじゃないスか!」
「いや、でも私なんて、」
「俺の誕生日だから、用意してくれたんスよね?」
「あ、はい」
「それなのにアンタにもし何かあったら、嬉しくないっスよ。喜べないっス」
「そう、ですね」

黄瀬くんは「はぁ」と溜め息をついて、Tシャツの首元で汗を拭った。

「誕生日に花火っスか」
「いろいろ考えたんだけど、その、思い付かなくて」

一緒にどうですか? そう言ってビニール袋に入った溢れんばかりの花火を見せると、黄瀬くんはお腹を抱えて笑った。

「花火するのなんて久しぶりっス」
「私も。ところで、えーと。その……、黄瀬くん彼女は?」
「あぁ。別れたっス」
「え」
「あー勘違いしないで欲しいんスけど、元々料理くそまずかったし、そろそろ飽きてきたころだったんで」
「えぇ。ヒドイ」
「いやだってカルボナーラ作ったって出てきたの、マヨネーズと卵とチーズ混ぜただけのソースだったんスよ?」
「食べられないこともない、かなぁ……」

だって好きな人が作ってくれたわけだし。私がそう付け足すと、黄瀬くんは「俺は無理」とバッサリ。

「黄瀬くんは恋愛続かなそうです」
「否定はしないっス」

それから全ての花火をやり終えるのは、相当な時間がかかった。その間、黄瀬くんの携帯は何度も着信を知らせていたが、黄瀬くんがそれを見ることはなかった。

「みんなにお祝いされて嬉しくないの?」

そう聞くと「今はアンタの花火で祝われておくんス」と返ってきた。黄瀬くんは友達想いだ。

誕生日を祝いましょう

prev | back | next
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -