×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

31


 そこは、まるで地獄のようだった。浮かぶ瓦礫、空中を埋め尽くすフィーラーたちに、目の前には、赤、青、黄の三体の敵。その向こうに、巨大な、人型の何かが、佇んでいた。巨人は右手を大きく振り上げ、鞭のようにしならせながら、あたしたちの立つ地面へと叩きつける。ぐらりと足場が揺れた。こっちだ! と叫んだバレットが退路を確保し、クラウドに続いてあたしとティファも駆け出す。かろうじて残っている足場を伝って、立ち止まらずに移動する。再度、巨大な手が襲いかかり、あたしの目の前を掠めていく。一体、あれはなんなんだろう。滴る汗を拭って、とにかく足を動かした。飛んできた瓦礫で頬が切れた。それに気を取られて、足がもつれる。バランスを崩し、転びそうになったところを、腕を掴んで支えてくれたのはクラウドだった。

「大丈夫か」
「うん、へーき、ありがと」

 そうしてまた、走り出す。一体あの壁を越えてから、どれくらいの時間が経ったのだろうか。壁を抜けた直後は、直前の風景となにも変わりはなかった。しかし、すぐさま大きな竜巻が発生し、退路も絶たれ、みんなが一斉に空中に放り出されていたのだ。気づけば一人、ミッドガルの上空に浮いていた。そのあたしの、さらに上を、大量のフィーラーたちが泳いでいて。一点に集まったそれが、あの巨大な人型となったのだ。あいつの攻撃で飛んできた瓦礫を避けながら、みんなを探す。はじめにクラウドと合流して、その後、巨大な足場の上でフィーラーと闘うティファとバレットに会ったのだった。そこで対峙したのが、人型の三体の敵。フィーラーが集まってできたのであろうこいつらに、苦戦を強いられていた。

「気をつけろ」

 あたしの前を走っていたクラウドが、瓦礫の坂を滑り降りる。あたしも続いて滑り降り、転がるようにその先に着地すると、待っていたのはまたしても人型のフィーラーだった。三体とも、別の武器を持っていて、どうやら耐性も違うようだ。とにかく、あの青いやつはサンダーを吸収するから、そいつ以外を重点的に狙っていく。魔法を使い分ける余裕は、なかった。どいつがどの魔法を吸収するか考えるよりも、確実に一体の体力を削いだほうがいい。赤い敵ばかりを狙って、雷魔法を唱える。クラウドのバスターソードが、そいつを捉えた。背後から一太刀。悲鳴のような音を出して、赤いフィーラーは空中へと溶けるように消えていった。次の瞬間、巨大な人型の腕が、ずるりと崩れ落ちる。どうやら、目の前の人型と巨大な人型は繋がっているらしい。歓喜の声を上げるバレット。背後から、エアリスとレッドが駆け寄ってきた。

「みんな!」
「エアリス! 無事だったの?!」

 姿が見えないから心配していた。ほっと気が緩む。そのあたしの脳内に、突然、見たこともない風景が浮かんできた。荒野を駆ける獣。赤いたてがみが、風に靡いている。その前脚の付け根に、もう見慣れた「XIII」の文字が。――レッド? 映像は唐突に消える。今、なにが、起きて、

「なんだよ今の?」
「我々が捨てようとしている風景だ」

 あたしたちが、捨てようとしている? どういうことだろう。でも、考える時間は与えられなかった。再度振り下ろされる巨人の腕。地面が割れて、エアリスたちと分断されてしまう。あたしとクラウドの前に、残りの二体が現れる。レッドによれば本体は巨大なあいつだというが、まずは目の前のこいつらを倒さなければいけないだろう。今度はほのおのマテリアに力を込めて、ファイガを連発する。出し惜しみなんかしてられない。キっと前を睨みつける。あたしたちで、みんなを、星を、救うんだ。



***



 突然世界が光ったと思ったら、真っ白な雲の中に立っていた。いや、霧、だろうか。強い風が、俺の髪を揺らしている。振り向くと、困惑したような表情のカレンと目が合った。他のみんなも、戸惑いながら周囲を見回している。三体のフィーラーを倒し、最後に巨人を攻撃したら、それは光の粒子を散らしながら、溶けるように消えていった。そして、気がついたらここに立っていたのだ。足元でぱしゃりと水音がする。浅い湖の上に立っているようだった。一体なにが起きているのだろうか。これも幻覚か? 先ほどから何度も、脳内に見たことのない景色が浮かんでは消えていた。それは、セフィロスだったり、エアリスだったりしたが、どれも、知らない場所、知らない景色だった。知らない? 本当だろうか。いや、本当は、俺は――。ズキリ、とまた頭が痛んで、思考を放棄する。頭を振って、目を開いた。相変わらず、目の前にはなにもない。「ここは……?」俺の漏らした独り言に、振り向いたエアリスは首を振った。突然、耳元で、囁く、低い声。

「早く来い、クラウド」
「っ?!」

 セフィロスの声。目の前のエアリスの表情は変わらない。聞こえていないのか? しかし、エアリスがハッとして周囲を見回す。上空から、赤黒い雲が立ち込める。舞い上がる火の粉と、轟く雷。頭上で大爆発が起き、熱風が俺たちを襲った。燃え盛る炎。そこから噴き出している黒い帯状のものは、フィーラーだろうか。それが一点へと集まっていく。紫色の禍々しいオーラを纏った男は、間違いない――セフィロス。空高く浮かぶ炎の塊から噴き出したフィーラーは、集まりながら、セフィロスへと吸い込まれていく。全ての炎がセフィロスに取り込まれ、その身体が紫色に光る。その、あまりの眩しさに、顔を手で覆った。頭上の雲が渦巻いて、そこから日の光が差し込む。刀を振ったセフィロスが、右手を上げると、辺りに浮かんでいた瓦礫が呼応するように浮き上がった。あれはミッドガルの、残骸、だろうか。巨大なそれは、セフィロスが腕を振り下ろすと同時にこちらに向かって落ちてきた。

「っ、避けろ!!」
「きゃああ!」

 崩れた足場を強く蹴って、空中に飛び出す。ひっきりなしに飛んでくるそれをバスターソードで正面から叩き切って、宙に浮く地面に着地した。目の前に広がるのは、崩壊した世界。なにもない、虚無の世界だった。背筋を冷たいものが駆け抜けていく。世界を、星を、護らなければ。セフィロスから。振り向くと、空からセフィロスがゆっくりと降り立った。俺に刀を突き付けてから、上段に構えをとる。バスターソードを握りしめ、セフィロスを睨みつけた。全ての元凶、星の敵。周囲に仲間は誰もいない。俺が、止めなければ。

「ここで、終わらせる」

 全てを。地面を蹴って、渾身の一撃を叩き込んだ。最後の闘いが、始まった。



***



 ぐらり、セフィロスの身体が身体がふらつく。その隙をつくようにバレットが銃を乱射したけれど、浮かび上がったセフィロスに避けられてしまう。もう少し! エアリスの声に励まされるように、レッドやティファがフィーラーを撃退する。襲いかかってくる大量のフィーラーを迎え撃とうとした時だった。辺り一面に激しく雷が落ち、周囲の敵が全て消え去る。カレンだった。同時に、叫び声。

「クラウド、いっけぇぇぇえええ!!」

 振り返ることはしない。カレンのお陰で開けた視界、前だけ見据えて走り出した。瓦礫を伝い、上へ。バレットの援護射撃を受けながら、飛び上がった先で、セフィロスの姿を捉えた。片翼をはためかせながら、不敵に笑う男に向かって、振りかぶったバスターソードを、思い切り、叩き下ろす。感触は、無かった。消えた? 疑問は光に飲まれた。世界が揺れ、虹色の光に包まれる。気がついたら、星屑の中を、昇っていた。いや、落ちていたのだろうか。気配に、目蓋を開ける。迫る地表と、そこに佇む、セフィロス。着地した途端、襲いくる頭痛。思わず頭を押さえた腕を掴んだのは、セフィロスだった。

「気をつけろ。そこから先は、まだ存在していない」
「っ?!」

 咄嗟に腕を振り払い、距離を置く。気にした風もなく、セフィロスは俺に背を向けた。上を見上げる。空はなかった。ここは、一体、なんだ? まるで宇宙に浮かぶ星の上のようだった。なにもない。俺と、セフィロス以外は、なにも。

「我々の星は、あれの一部になるらしい」

 セフィロスが見つめる先、宇宙の彼方、光る、それ。

「俺は、消えたくない。……おまえを、消したくはない」
「ここは?」
「世界の先端だ」

 世界。ここが、俺たちの、世界? 一体どういうことだ。振り向いたセフィロスが、俺に近づく。

「おまえの力が必要だ、クラウド。ともに、運命に抗ってみないか?」

 差し出された右手。そのグローブを見つめてから、ぐっと右手を握りしめた。そんなこと、俺がすると思うのか? 俺、が。

「断る」

 バスターソードを構え、首を振る。ニヤリと笑ったセフィロスは、それ以上言及せず、刀を上段に構えた。剣先が触れそうなほど近くで、睨み合い、お互いの呼吸を探る。一瞬の静寂。息を吐きながら、思い切り大剣を叩き込んだ。一撃、二撃、三撃。全て防がれる。距離をとってから、もう一度。飛び上がって上から叩きつけたそれも、楽々と防がれた。反撃の刀を躱しながら、胴体に剣を叩き込む。避けられる。フェイントをかけて背後から左脇腹を攻撃したが、後ろ手に受けられてしまった。流れるように返される刀が空を切る音。紙一重で躱して突き付けた大剣はセフィロスの刀でいなされ、弾かれ、飛ばされる。もう一度、もう一度だ。振りかぶった剣は、真正面からぶつかり合う。飛び散る火花。唇を歪ませたセフィロスが、ニヤリと笑った。

「軽いな」

 吹き飛ばされ、後方に着地した。瞬きをする間もなく距離を詰めてきたセフィロスの刀が、俺の大剣をとらえた。金属音を立ててそれは弾き飛ばされ、地面へと突き刺さる。そんな、馬鹿な――。バスターソードを見つめる俺の背後から、セフィロスが耳元に唇を寄せる。飛び出してきた言葉は、予想もしないことだった。

「終末の7秒前。だが、まだ間に合う。あの女には、気を許すな」
「あの女……?」
「カレン」

 ハッと息を飲む。カレン? カレンが、一体、

「――。未来は、おまえ次第だ、クラウド」

 続いた言葉に、振り向いたけれど。そこにはもう、誰もいなかった。黒い羽が一枚、音もなく地へと落ちていく。見上げた先、宇宙が、妖しく光っていた。



***



 気がついたら、崖の上に立っていた。そこから、地平を見下ろす。ミッドガルが、あんなに小さい。あたりは、見渡す限りの荒野が広がっていた。いつの間に、あの壁を越えて来たんだろう。セフィロスも、フィーラーも、なにもない。草も、木も、生き物も、なにも。これが、自由なのだろうか。だとしたら、なんて虚しいんだろう。震える拳をぐっと握ると、隣に座っていたレッドがあたしをチラリと見上げた。独り言のように、ポツリと呟く。

「あたしたち、壁を越えたんだよね。なにかが、変わったのかな」
「……未来は、選択次第で変化する。なにを選ぶかは……自分次第だ」
「それが、自由ってこと? この荒野が? あたしが、この世界を選択したの?」

 選択するということは、恐ろしいことのように思えた。なにかを選ぶということは、なにかを捨てるということだ。選ばれる選択肢があれば、当然、選ばれない選択肢もあるということで。選ばれなかったその未来は、消えてしまうのだろうか。選択する責任を負うのが、自由ということだろうか。そうならば、やっぱり、あたしに、自由は、重すぎる。

「私の故郷はここから遠く離れているが、」

 レッドの低く響く声が耳に心地いい。まぶたを閉じて、その声に耳を傾ける。レッドの故郷。どんなところだろう。みんなレッドみたいなわんこのような姿をしてるのかな。オシャレな格好をしてるんだろうか。きっと、子どもはちっちゃくてかわいいんだろうな。

「そこには山や、森や、林がある。さらに離れた地には海がある」
「海? 海って、あの、塩っ辛い水が、たくさん溜まってるところ?」
「ああ。川も、湖も、谷も。ここが世界の全てじゃない。世界はもっと広いぞ、カレン」

 そうか、ここが全てじゃないんだ。そうだよね。もう壁はない。あたしを、縛るものも、なにもない。あたしは、どこへだって行けるんだ。この足で。ありがとう、と呟いて、レッドの頭を撫でる。意外に心地よいのか、素直に撫でられるレッドは本当にわんこみたいだ。たぶん、犬扱いされるの好きじゃないだろうから、言わないけど。耳の裏をカリカリ撫でていると、バレットがミッドガルに向かって拳を突き出し、大きく吠えた。

「マリン! 待ってろな!」
「どっちへ行けばいいんだろう」

 ティファが困ったようにエアリスを見たけれど、彼女はわからない、と首を振るだけだった。そういえば、クラウドは。あたしたちに背を向けたクラウドは、俯いて手元のなにかを見ているようだった。なんだろう。近づいて、クラウドの腕に触れる。握られたグローブ、その中には、なにもない。ギリ、と拳を握りしめて、クラウドがぼそりと呟いた。

「セフィロス……あいつがいる限り、俺は」
「でも倒しただろ?」

 バレットの問いに、クラウドは首を振る。そうして、顔を上げてあたしを見てから、目を見開いた。え、な、なんだよう。そのままがしりと両方の二の腕を掴まれる。ぐ、と顔を近づけたクラウドが、至近距離であたしの瞳を覗き込んで。息が止まる。澄んだ魔晄色の瞳に、吸い込まれてしまいそうだ。辛そうに、眉根を寄せたクラウドは、ゆっくりと唇を開いた。

「カレン、」
「……なぁに?」
「お前は、」

 なにかを言いかけて、クラウドは言葉を詰まらせた。困ったような、その表情が、あたしの心臓を締め付ける。クラウドの瞳が、微かに揺れていた。どうしてだろう。彼が、怯えているのが、なにかを、恐れているのが、直感的にわかってしまった。なにかあったのだろうか。セフィロスと? わからない。でも、たぶん、クラウドは、今、ひどく不安になっている。

「クラウド」

 きつく握られた拳に、そっと手を添える。強張ったそれをゆっくりと解いて、手のひらをするりと撫でた。クラウドが息を飲む。あたしの手よりも、ひとまわりもふたまわりも大きいそれに、指を絡めてみる。大きすぎて、めいいっぱい指を開いたけれど、全然届かない。この大きい手が、あたしを救ってくれたんだ。絶望に沈んでいたあたしを、引き上げてくれた。だから、ねえ、クラウド。もし、クラウドが、悲しみに沈んでしまったら、今度はあたしが、クラウドを引き上げるよ。

「ね、クラウド、セフィロス、追いかけよう」
「カレン、」
「あたし、バレットみたいに、強い気持ちが、あるわけじゃないけど。でも、この星を、救いたいと思う。あたしが、クラウドやエアリスが、みんなが、生きてるこの星を、護りたい。だから、セフィロス、倒しに行こう」

 旅に出る理由は、それだけじゃないけど。でも、この星を、護りたいのは、本当だった。あたしの言葉に、エアリスが頷く。

「追いかけよう。大丈夫」
「私も、行く」
「追跡ならば、鼻が必要だろう」

 ティファも、レッドもクラウドを見つめて、一歩足を踏み出した。背を向けていたバレットが、頭を掻き毟ってから、一言吠える。振り向いた彼の瞳には、決意が込められていて。

「オレも行くぜ! あいつは星を壊すつもりなんだろ? 星の敵はアバランチの敵だ」

 クラウドが、みんなを見回して、ゆっくりと、頷いた。それから、あたしを見つめて、手をぎゅっと握る。う、わ、やだ、手、繋ぎっぱなしだった。かあ、と顔が熱くなって、反射的にそっぽを向いてしまう。くすりと笑ったクラウドが、小さな声で、ありがとう、と言って、手を離した。そのグローブに、ポツリ、と雨粒が落ちてくる。パラパラと降り出す雨。空を見上げてから、クラウドはみんなを見回した。

「行こう。セフィロスを追って、星を救いに」

 歩き出すクラウドに、みんなが続く。ふわり、風があたしの横を駆け抜けていった。懐かしい気配が、すれ違った気がして振り返ったけれど。後ろにはエアリスが居るだけ、だった。なんだろう、今の。振り向いたあたしに気づかずに、エアリスは右の手のひらを見つめて立ち止まった。ゆっくりと上を見た彼女の唇が、小さく動く。なんて言っているのかは、聞き取れなかった。でも、その表情が、瞳が、苦しそうで、悲しそうで。気付いたら、彼女に駆け寄って、彼女の手を取って、名前を呼んでいた。驚いたように目を丸くしたエアリスが、あたしを見つめる。その、細い指を、両手でしっかりと握って。そうやって、捕まえていないと、エアリスが、消えてしまいそうだったから。どうしてそんなこと思ったのだろう。こんなにはっきりと、見えているのに、どうしてか彼女が、彼女の心が、ここにないような気がして。彼女の心が、ひとりぼっちな気がして、もう一度、はっきりと、彼女の名前を、呼んだ。

「エアリス、」
「カレン」
「あたしね、自分のこと、まだ、全然わかんない。でも、クラウドがね、それでいいって、言ってくれたんだ。神羅の実験体でも、記憶がなくても、あたしを必要としてくれるんだって。クラウドが居場所をくれた。だから、あたしは今、ここに立っていられる」
「カレン、わたし、」
「でもね、あたしは自分で見つけたい。自分の居場所、自分で。だから、前に進もうって決めたの。あたしはあたしを探しに、旅に出るの。ねえエアリス、こんなあたしじゃ、エアリスの支えにならない? エアリスの助けにならない? あたしなんかじゃ、エアリスの居場所に、なれない、かな」
「そんなことない!」

 叫ぶように言ったエアリスが、強くあたしの手を握り返してくれる。それが、胸を締め付けられるほど嬉しくて。にこりと笑ったら、見開かれたエアリスの翡翠の瞳が、ゆっくりと細められた。「ありがとう、カレン」祈るようにエアリスが囁くから、あたしも、エアリスの手を握って、目蓋を閉じて、祈った。願わくば、彼女の背負っているものが、少しでも、軽くなりますように。

「カレン! エアリス!」

 ティファの声に顔を上げると、立ち止まったみんなががこちらを見ていた。「置いていくぞ」そんな気なんてさらさらないくせに、クラウドが腕組みをして呆れたように声を上げる。エアリスと顔を見合わせてから、くすりと笑い合った。クラウド、素直じゃないね。囁かれた言葉は、クラウドには内緒にしておこう。

「今行く!」

 エアリスと一緒に、クラウドたちの元へ走り出す。右手を、ギュッと握りしめた。シルバーが雨粒を弾いて、きらりと光る。この手はまだ、なにも掴んではいないけど。この旅の先にきっとある、あたしにとって大切ななにかを、探しに行くために。立ち止まらないで、進もう。旅はまだ、始まったばかりなのだから。





200620



[ 31/59 ]