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 ギラギラと光るネオン。遠くから聞こえる喧騒と、それから、鼻をつく臭い。食べ物と香水が入り混じったそれに、思わずフードを引き下げた。くっさ。ここはウォールマーケット。その名の通り壁で囲まれたこの街は、スラムの中では異質だった。欲が集い、消費される街。昼間とは違う雰囲気に口を噤む。うへえ、やっぱりここ、夜に来るもんじゃないな。

「すごいな」
「奥の方はもっとすごいよ」
「カレン、探検したこと、ある?」
「昼間にね。夜は、早めに宿に入って寝るようにしてる」
「……それがいい」

 クラウドとエアリスと並んで、入口から街を眺める。夜とは思えない明るい広場には、人々がひしめき合っていた。どの男女も、なんとなく、距離が近いような。客引きの男の媚びたような声が酷く不快だ。できればお邪魔したくなかったここに居る理由、それは。

「ティファ、どこ行っちゃったんだろうね」

 大人っぽい紫のセクシードレスを身に纏ったティファを見つけたのは、六番街スラムのみどり公園についた時だった。閉まっていたゲートが開き、そこを悠々と通過するチョコボ車に、着飾ったティファが乗っていたのだ。駆けつけて話を聞いたクラウドによると、どうやらコルネオという男の元へ向ったらしい。ドン・コルネオ。ウォールマーケットに足を踏み入れた者なら知らない者はいないその男は、あまり評判がよろしくなかったはず。

「嫌な予感、する。とにかく早くティファを見つけた方がいい」
「うん。あ、チョコボ車、あるよ。聞いてみよう?」

 エアリスがチョコボ車のスタッフに話しかける。軽くあしらう男に、喧嘩を売るクラウド。ほんと、喧嘩っ早いんだから、全く。ていうか、あれ、この店、あたし知ってるな。クエェ、とチョコボが鳴いたその時、店の奥から男が一人現れる。見知った顔だった。

「なに騒いでやがる」
「あ、サムさん」
「なんだ、カレンじゃねぇか」
「カレン、知り合い?」
「うん、マテリア売りに来たとき、口利きしてもらった」

 はじめてウォールマーケットを訪れた際、暴走したチョコボを捕まえたのだった。捕まえたっていうか、捕まったっていうか、逃げ出したチョコボに体当たりされて一緒に転んだだけなんだけど。まあそれで感謝されて、お礼にマテリア屋を紹介されたのだった。多分サムさんの口利きがなければ、締め上げられたりショバ代を要求されたりと結構大変なことになってたと思う。感謝感謝。

「で、どうした」
「そこのチョコボ車に乗ってた娘、探してるんだけど」
「教えても構わねぇが……結構連れてきたからな。特徴は?」
「黒髪ロングの娘。名前はティファ」
「なんだ、ティファちゃんか。お前の知り合いか?」
「えーと、あ、クラウドの……この人の、恋人」
「なっ!?」
「そうか……。あの子は当分出てこれねぇよ。コルネオさんの屋敷でオーディションを受けることになってる」
「オーディションって?」
「コルネオさんが嫁を選ぶオーディションさ。彼女はコルネオさんの好みにドンピシャだ。俺が言うんだから間違いねぇよ」

 それって、ティファが、コルネオと結婚するってこと?! 信じられなくて口をあんぐり開けてしまった。ああ、だから、あんなにめかし込んで、いや、違うそうじゃない、結婚?! どうしてまた。一体なにが。

「そこのお前。もうティファちゃんは諦めるんだな。じゃ、俺は仕事があるんでな」

 あたしたちが何か言う前に、サムさんはくるりと背中を向けて店の中へ入っていった。残された三人で、お互いの顔を見合わせる。クラウドに睨まれた気がするけど完全に無視をして、エアリスに話しかける。

「どうしよ」
「とにかく、コルネオの屋敷まで行ってみよう」
「エアリスも行くの? 危ないよ」
「じゃあ、早くティファさん見つけなきゃ、ね」

 歩き出したエアリスの後を慌てて追いかける。まとわりついてきた客引きの男を一蹴し、広場へと歩みを進めるエアリス。うーん、やっぱりあたし、エアリスには敵わない、かも。



***



「どうして?? どうしてあたしこんなところにいるの??? 戦闘狂なのはクラウドでしょ? あたしまで必要なくない??? クラウド一人で十分じゃない???」
「うるさいカレン! サンダーでも落としてろ!」

 コルネオの屋敷に赴いたあたしたちを出迎えたのは、手下たち三人組だった。どうやらティファはもう屋敷の奥にいるらしく、会いに行くにはティファと同じように嫁候補として推薦される必要があるらしい。ティファの現状がわからない今、とにかく合流することを第一に考える必要がある。非常に、非常に不本意だが、エアリスと共にコルネオの嫁候補として推薦してもらえるよう、代理人たちの元を訪れることになったのだ。しかし、最初に出向いたサムさんには、すぐに断られてしまった。今回、サムさんは既にティファを推薦していたためだ。「カレン、本当に立候補すんのか? やめとけ」と何度も止められてしまった。その様子からして、多分、嫁候補って、ろくなもんじゃないのでは……? 初めは、童話の中で王子様が開催するダンスパーティーをイメージしてたんだけど。でも、全然、そんな感じじゃなさそうだな。うう、行きたくない。だからと言って、エアリスだけ送り込むわけにもいかないし。仕方ない。次に訪れたマダム・マムの推薦を得るために、あたしたちは地下闘技場に足を踏み入れたのだった。彼女にモミモミされたクラウドについては、ここでは割愛する。

「おーっと! ここでカレンのサンダーが炸裂ぅ! マシンに大、大、ダメージだぁぁあ!!」
「だいたい、なんで、マシンが参戦してんの!? もー、サムさん!!!」

 順調にコルネオ杯を勝ち上がってきたあたしたちだったけど、思えば初戦から変だった。だって猛獣使いって言うか、あれ完全にモンスターだったからね! モンスターVSあたしたちって図だったからね。準決勝の相手はどこかで見た盗賊たちだったけど、決勝戦の対戦相手は、まさかのカッター&スイーパー。完全に神羅のマシンなんですけど。しかも推薦がサムさんって! いやサムさんもあたしがこんなところ出てくるなんて思ってもみなかっただろうけどさ。きっと相当高価であろうマシンを、仕方なくボコボコにする。勝つためには仕方ないよね、うん。

「容赦のない魔法攻撃! 小柄な身体からは想像もつかないほど、激しい攻撃だーッ!」
「一体そのフードの下はどうなっているのか?! 美少女なのか! それともやっぱり醜いのかーッ!」
「失礼だな実況!! なんだやっぱりって!」
「フード取れゴルァぁあああ」
「つか服脱げー! 女は服を脱げー!」
「誰だ今服脱げって言ったやつ! 服燃やしてやるから出てこいやァ!」
「おいカレン、どこ見て、」
「カレン、危ないっ!」
「うぎゃあっ!」

 カッターマシンの左カッターが目の前を通過する。あ、危なっ!! 紙一重のところで躱したけれど、フードがざっくりと切れてしまった。しかもちょっと前髪も切れたっぽい。最悪!

「おっとー!! ようやく素顔を晒したカレン、思っていたよりもマシ……美人だあー!」
「だから実況は喧嘩売ってんの?!」
「顔はいいから服を脱げー!」
「カレンはいいからエアリスちゃんの素肌が見たーい!!」
「ッ!! アンタら喧嘩売ってんのか!! まとめて買ってやるよ――エアロガ!!!」

 ぶわり、会場中が突風に包まれた。目を開けていられないほどの暴風に、至るところから悲鳴が上がる。実況がなんだか叫んでいるけど、全く聞こえない。目の前、巨大なマシンが空中高く舞い上がり、そしてそのままコロッセオの中央に叩きつけられた。ガシャン。耳を劈く機械音。止まる風、そして、静寂。

「なんてこった、なんてこった、なんてこった!」
「コルネオ杯の頂点に立ったのはなんと、クラウド&エアリス&カレンチーム!」

 うおおお! と盛り上がる観客席に向かって拳を突き上げる。ふはは! やってやったぜ! 清々しい笑顔をで手を振ると、観客席から歓声が沸き起こる。やば、ちょっと気持ちいいかも。にまにまとゆるむ頬のまま、特別席を見上げた。サムさんに向かって、ごめんね、と右手を上げる。呆れたような表情のサムさんが、ため息をつきながらそれに応えてくれた。隣のマムも上機嫌そうだ。よし、あたしの仕事はこれで終わりだな。

「お前、配分考えないで魔法使う癖、どうにかしろ」
「クラウドは真面目だなぁ。いいじゃん、今の決勝戦だったし」
「これで推薦、もらえるといいね」

 エアリスと並びながら控え室に戻る。このあと、クラウドの言い分が正しかったことを、身をもって理解した。だって、まさか、もう一戦あると思わないし、まさかのまさか、それが、燃え盛る家だなんて、誰も想像できないに違いない、よね? えへへ、と笑うあたしの頭を、クラウドがバシリと叩くまで、あと少し。



***



 女のフードが外れ、顔があらわになった時、あまりの衝撃に男は立ち上がった。コロッセオからの中継画面を食い入るように見つめるその姿は異常で、近くに控えていた部下が戸惑ったように名前を呼ぶ。

「ドン、どうかしました、か?」
「……写真だ」
「は?」
「写真を持ってこい! この間、あの男が置いていったやつだ!」

 慌てて部下は、悪趣味なチェストの中から一枚の写真を取り出した。差し出されたそれを引ったくった男は、画面と写真を交互に見る。間違いない。髪の長さや雰囲気は違うが、写真のスーツの女は、今思い切り魔法を放った女と同一人物だった。

「この女の素性を調べろ」
「女ですか?」
「灰色の髪の方だ! ひっ捕まえて俺のところに連れてこい!」
「は、はいっ!」
「それから、連絡を入れておけ」
「だ、誰にでしょう?」

 おどおどする部下に、男は怒鳴りそうになる口を引き結ぶ。このピンチをチャンスに変えられるかどうかで、今後の自分の全てが決まる。失敗は許されない。口髭をぶるぶると震わせながら、男は憎らしげに吐き捨てた。

「神羅カンパニー総務部調査課……――タークスだ!」

200515



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