19話(夜:政庁)


月が見えない、ひどく暗い夜だった。
日付が変わっても空は帰って来ない。連絡も無しだ。
帰りを待つのは僕だけじゃない。
自室に戻ったジノとアーニャ、医務室にいる先生も彼女の帰りを待っている。
ロイドさんとセシルさんは、こんな時間までそばにいてくれた。

「スザク君。ナナリー皇女殿下に、本当に報告しなくていいの?」
「……はい。
今はまだ黙っていてください」
「薄々気づいているかもしれないねぇ」

こんな時でもロイドさんの声は明るい。
ロイドさんの言う通り、気づいていたとしてもナナリーはきっと問い詰めない。
こちらが打ち明けるまで待ってくれるはずだ。

「空ちゃん……どこに、行っているのかしらね……」

セシルさんの呟く声は儚い。
心の底から案じる家族みたいな声音だった。

「こんな時間まで歩き回ってるわけないと思うけど。
泊まるにしても食事にしてもお金は必要だ。
所持金って把握してる?」
「いいえ。そこまでは……」
「空ちゃんの報酬が入金されてるカードは?」
「部屋にありました。
お金は多く持っていないはずです。
あと空が身につけているサングラスは……。
ついさきほど確認したら、僕のところの引き出しに今もありました」
「え? それじゃあ空ちゃん、スザクくんと同じものを?」
「去年買ったやつです。
同じものが今も売ってるなんて……」
「おそろいだね」

空と買い物に出かける時にいつもかけているサングラスだ。
自分も欲しい、と思って買ったのだろうか……。

「……すみません、ロイドさんセシルさん。
遅い時間です。そろそろ休んでください」
「分かったわ。スザクくんも、もう休まなきゃダメよ」
「明日から大忙しだからねぇ」

空は政庁の人間だ。
届出無し、連絡を断っている今の現状は、軍人じゃなかったとしても看過できない。

中に戻り、指先が冷えていることに気づく。
こんな時間まで一緒にいてくれたロイドさんとセシルさんに感謝の念が湧き上がる。
通路に響くのは僕たちの足音だけだ。

「音信不通になってからのソラの行動、全てが不可解」

ふと思い出す、アーニャの言葉。
心の中で疑問ばかりが重く蓄積されていく。

「自分の過去を隠していたスザクへの怒りで、携帯の電源を切っているかもしれない」

否定したかった。でも今は。
その可能性もある────と思ってしまう。

「……空はひとりで動いているんでしょうか」

ふたり同時に足を止める。
僕の小さな呟きにも、ロイドさんとセシルさんは気づいてくれた。

「ひとりじゃないね。
協力者がいなきゃ、こんな思いきった行動はできないよ」
「協力者ですか? 今の空ちゃんに協力してくれる人なんて……」

セシルさんの悩む声が遠ざかる。
僕の脳裏にルルーシュの顔が大きく浮かび、多くの疑問が吹き飛んだ。

協力者がルルーシュなら空も安心して動けるのでは……!?

「いるにはいるよ。
あの子のデータを貰いに、外部の人間が何人か来ていたからねぇ。
あとは心拍計の試験モニターしてたところだね。あれってどこだっけ?」
「出資はホルンビット社、開発はR製薬でした。
契約の書類は先生が……」

ルルーシュだ。ルルーシュしかいない。
怒りで視界が狭まる。

ルルーシュに確認しなければ。


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