15話(後編)


ひとりになりたい、そばに居てほしくない。
そう思っている人間の至近距離にいるのは迷惑極まりない最低の行為だ。
なのにあたしはルルーシュの気持ちを無視して、離れたくないという自分のわがままを優先した。

紫の瞳から光が徐々に失われていく。
暗いところに沈んでいくルルーシュを見続けて。
ほとんど、ずっと泣いていた。
降り止まない雨のようだった。

ルルーシュを暗いところから引き上げてくれたのはミレイ達だ。

「またここで、花火を上げよう。
絶対、絶対にもう一度、みんなで」

いつか腕まくらをしてもらった夜。
“ルルーシュは優しい世界になったら何したい?”と聞いたことがあった。
あの時のルルーシュは確か……“俺は目の前の事で精一杯だから”と、それだけしか言わなかった。
ルルーシュの願いを、あたしは聞きたかったんだ。

紫の瞳に生き生きした強い光が戻る。

《空。
俺を、俺のそばで見ていてくれ》

もう大丈夫だ。
今のルルーシュに絶対の安心感を抱いた。
長い雨がやっと止んだ。

その後、ルルーシュはミレイ達と別れ、正面玄関の暗がりに隠れるロロと合流した。

「ロロ、手伝ってくれ。
お前が必要だ」

ルルーシュのお願いに頷くロロは嬉しそうだった。
以前見せていた、不審がる眼差しをもうしない。


  ***


ルルーシュは急いで携帯を新調する。
その間、ロロはヴィンセントを起動しに行き、あたしは政庁の格納庫を確認した。
大規模な作戦を実行中なのか、庫内のナイトメアのほとんどが出払っていた。
さらにスピードを上げて軍専用の港に突っ込み、大量に並んでいたポートマンが全部出払っているのを確認する。
近海に潜っている黒の騎士団を総攻撃するんだ、と気づいて、次いでルルーシュに報告した。
ルルーシュはどこかの軍人にギアスを使い、総攻撃の開始時間を聞き出していたようだ。
夜まで猶予はあるけど急がないといけない。
ルルーシュは、黒の騎士団を勝利に導く為の情報収集をする。

全ての準備が整い、もう夜だ。
暗い空を飛行するヴィンセントに運ばれ、ルルーシュは横須賀の海が見える場所に行く。
周辺に街や建物は無く、崖の上だ。
サスペンスドラマに出てきそうな断崖絶壁。
ロロは待機。ヴィンセントは跪いた体勢で後方に控えている。
はるか遠い地平線、軍の船が密集しているのが見えた。

ルルーシュは近海の地図を広げ、耳に携帯を装着する。
海が目の前にあるから風は強い。
ルルーシュの上着も、髪も、両手で持つ海図もバタバタとはためく。

軍の攻撃が始まった。
激しい爆撃が真っ暗な海と空を眩しく照らす。
集中砲火だ。 

軍は海上からミサイルを発射して追い打ちをかけ、水しぶきが一斉に上がった。
目視では何艦いるか数え切れない。

「Q1!
聞こえるか? Q1!」 

カレンに連絡を入れる。
今回は耳をくっつけて盗み聞きはしない。

「ダウントリム50度、ポイントL14に向けて、急速潜航しろ」

海を見据える紫の瞳は美しい。
夜空で一番明るく輝く星よりキレイだった。

「正面に向けて魚雷全弾発射。
時限信管にて40秒だ」

騎士団は魚雷を発射したようだ。
戦艦の群れが一点を目指して急速に動き始めた。

「アンカー固定後、各員、衝撃に備えろ」

海図を片付け、置いたトランクを持ち上げ、駆け足でヴィンセントの元まで行く。
いい風除けだ。
ルルーシュはトランクを開き、急いでゼロの衣装に着替え始める。

ちょっと視線を外した間に戦況は大きく変わっていて、海面に雲みたいな泡がモコモコぼこぼこと溢れてくる。
広範囲の濃密な泡は戦艦の群れを押し上げ、続々と転覆させた。大惨事だ。
海図だけで距離や時間を計算して騎士団を救った。
本当に。本当にルルーシュは……。
 
《……どうやってこんな! すごい!!》
《メタンハイドレートの採掘施設が海底にある。
そこを爆破してメタンを放出させた》

ニヤリと得意げに微笑む声に振り返る。

《大量の泡で奴らはもう壊滅状態、動ける戦力を限りなくゼロにした。
こちらの勝利だ》

完璧に着替えたゼロはヴィンセントの両手に乗っている。
トランクはコクピットに隠したのかな。
ヴィンセントはフロートユニットを装備していて、ゼロを両手に乗せたまま、断崖絶壁から飛び立った。
それで海上を飛ぶの!?とドキドキしながらあたしも追いかける。
ゼロを落とさず優雅に飛行する、ロロの操縦技術にも目がキラキラするほど感動した。
掌中のゼロはしゃがんでいる。
片膝をつき、マントは風でぶわっと舞い上がり、風を受けて大きくはためく。
登場の仕方がめちゃくちゃカッコいいんだけど。
進行方向に豆粒サイズのナイトメアを発見した。
目を凝らせば、空中にはランスロットだけじゃなく、ジノとアーニャの専用機もあった。
ランスロットがヴァリスをこちらに突きつける。

「撃つな!!」

ゼロのマスクには拡声と通信機能もついているのか。
鋭い声はランスロットを制止した。

「撃てば君命に逆らうことになるぞ!」

ヴィンセントの飛行スピードがゆっくりになる。ゼロはスッと立ち上がった。
自分なら怖くて身が縮みそうな足場でも、ゼロは背筋を伸ばして悠々と立つ。

「私はナナリー総督の申し出を受けよう。
そう、特区日本だよ」

仮面で顔は隠れているけど、声に乗せた感情は豊かだ。
自信満々の不敵な笑みが頭にありありと浮かぶ。
ゼロは右手をバッ!と前に付き出した。

「ゼロが命じる!!
黒の騎士団は全員、特区日本に参加せよ!!」

号令をかける姿は痺れるほどカッコよかった。


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