かくとだにえやはいぶきの
さしも草さしも知らじな燃ゆる思ひを

#2

数日もすれば、椿の婿取り勝負の話は領内に広まった。
噂を聞いて新たに名乗り出たものもいるという。
腕に覚えのある商人、町人、武者はもちろんのこと、
椿みたさに集まった武田家家臣、城下の男たち、武勇を見届けようとやってきた城の女中たち、城下の娘たちまで城に押し寄せた。


戦装束に髪を高く一つに結い上げ、二振りの刀を背に交差に刺したい出で立ちの椿が集まった者たちに告げる。


「私は、私を負かすことの出来た強い殿方を婿に迎えます」


炎の婆娑羅を纏わせ刀を引き抜くと、炎がぐるぐると椿のまわりに渦巻いた。
ごうごうと炎が唸りを上げた。


「ただ今これより数人の殿方と順番にお相手仕る。
 腕に覚えあるものはかかってくるが良い」

刀を地面に突き立て火柱をあげ、不敵に微笑めば、その姿に恐れおののいた何名の挑戦者は試合を辞退したという。


ついに椿の戦が始まったのだ。

一日にさばける数には限度もある。そして一日の回復にも限度がある。
慎重に熟さなければ、とても達成は出来ないだろう。
自分には日々の仕事もある。椿は冷静に考えていた。


とりあえず、初日はこんなものだろう、と数名の男たちで小さな山を築いた。
観戦しているものたちからの歓声を後にして椿は城内へと帰っていた。










幸村がいつものように道場での日課の鍛錬を終え、井戸端で汗を拭いながら休息していると、どこからともなく佐助がひらりと舞い降りた。


「ねぇ真田の旦那、聞いたー?姫様の婿取りの話」
「・・・む・・・なんだそれは・・・」

椿の話題におもしろくなさげに眉間にしわを寄せた幸村に、旦那知らなかったの?と佐助は飄々とした口調でいう。


「姫様ももう年頃だからね、自分と一本勝負して勝ったらその相手を婿にするってことらしいよ?」
「!?そ、それはまことか!?姫様が言い出したのか?!」
「うーん、あの感じだと、多分提案したのはお館様なんじゃないのかなー?」
「お館様が・・・」


旦那気になるー?とにやにやとした目線を感じた。


「う、お、俺は別に姫様が、幸せなら・・・」
「・・・旦那それ本気で言ってる?
 仕舞いにはどっか手が届かないところへ行っちゃうぜ?
 好きなら好きって、伝えなきゃ。心の中で思ってるだけじゃダメだ」
「あ、ああ・・・心得ている・・・」
(おいおい、旦那しっかりしてくれよ〜〜)



あとがき

こんなにもあなたを想っているのに打ち明けることができません。伊吹山のもぐさのように、あなたを想って熱く燃えていることなんてあなたは知らないでしょう。
似た者同士のふたりです。


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