忍ぶれど色に出でにけりわが恋は
ものや思ふと人の問ふまで

#1

椿は武田信玄の一の姫としてこの世に生まれた。

初の姫として、それはもう父である信玄に目に入れても痛くないという程可愛がられ、蝶よ花よと育てられた。
もちろん戦国乱世に生まれた武田の女として武芸も厳しく仕込まれた。
いまでは剣と薙刀の技は並の兵には負けはしない腕前だ。
良くも悪くも勝気で男勝りな姫に成長を遂げた。

戦で留守がちな信玄の名代として政で表舞台に立つ彼女は民からの人気も高かった。
甲斐に咲く紅き華、なんて呼ばれることもしばしばだ。


そんな椿にも悩みがあった。恋の悩みだ。
自分が恋慕う相手からも等しく想われたら、そんな女として至極当然の悩み。

でも慕う相手が問題だった。

幼少の頃よりの旧知の中、いわゆる幼馴染という間柄。
幼き頃は一緒に野原を駆け、些細なことで喧嘩をしたり、同じ団子を食べて笑い合っていたのに・・・。
時の流れとは残酷なもので幼いふたりを、少女を女に、少年を男に成長させてしまった。
心と身体が大きくなるにしたがって、二人の距離は反比例して離れていく。

今では、ふたりは主家の姫君と家臣の若武者となった。





―ある日

父である信玄に誘われ、椿は茶室に来ていた。
信玄は話があるとよく椿を茶室に呼び出していたので、今日もそんなところなのだろう。

点てられた抹茶を飲みほし、茶菓子を黒文字で一口大に切りって口へ運ぶ。
こんな重たい気持ちがなかったらもっと美味しく味わえたのにと椿は思った。

椿は今日ここに呼び出されることに心当たりがあったのだ。


「して椿よ、他家より嫁入りの申し出が来ておる件だが・・・」

いかがする、と優しい声色で信玄は続ける。
予想していた内容に、用意していた答えを述べる。

「・・・私はどこの家にも嫁ぐ気は御座いません。親父殿ともに甲斐を、武田を守りとう存じます」
「そうか・・・お主のその気持ち、嬉しいぞ」


「そして幸村にも、お主と同様に多数縁組の打診が来ておる・・・」
「・・・・・・っ、」


予想外の発言に肩をかすかにふるわせた。
信玄の顔を見上げれば、試すような目で椿をみていた。

「のう椿、賭けをせんか?」
「・・・賭け、にございますか」

「お主が勝ったら、何でも欲しいものが得られるであろう」
「わたしに欲しいものなど・・・」

「欲しくないのか、あやつが」
「っ!」


的確に確信をついた言の葉に椿の心臓がばくんと鳴った。
目の前の父はいまなんといったのか。
欲しい、喉から手が出るほどに。
身体全てが心臓になったような間隔を味わう。


「話は簡単じゃ、お主に求婚してくる数多の男たちと闘い、なぎ倒せ」
「・・・は?」
「もしお主が最後まで勝ち抜けば、おのずと“欲しいもの”が手に入る」
「・・・・」

「椿、負けるのが怖いか?恐ろしいか?」


信玄の挑発めいた問い。


(ここで尻込みなぞしたら女がすたる!)


勝たねば手に入らぬというならば、勝つまで。


「親父殿、その勝負受けて立ちましょうぞ!!」
「椿よ!!!その意気やよし!それでこそわしの娘じゃあ!!」

「おやじどのぉぉおお!!!」
「椿ぁあぃぃい!!」
「おやじどのぉおお!!!!!!」
「椿ぃぃいいい!!!!!」
「この椿、必ずや勝ち取ってみせまするぅうううぁああ!!」



―その日のうちに甲斐の国中に椿姫の婿取り合戦の話は発表された。


あとがき

忍びこらえていたけれどとうとうその素振りに出てしまった。何か物思いをしているのですかと人が尋ねる程に。

煽られた椿ちゃん生き残りバトルロイヤルの巻
あ、殴り愛はしてないです。父娘は雄叫びだけ。



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