篤×郁





「先、帰っててって言ったのに…。」


女子更衣室を出た先に見つけた彼を見て、ちょっと眉を下げる。


「今日はあの店に行く約束だったろう?」
「でもっ…。」


担当している新人教育の報告書にちょっと手間取ったため、私は先に帰るように事務室で伝えたはずだった。



「一週間も前に約束したんだ。守らない訳にはいかないな。」


けれどこの季節。
廊下は酷く冷たくて、篤さんの鼻は少し赤い。


ペタ。


触れた頬は、雪のように冷たい。
触れた手が温かいのか、擦り寄って目を瞑る。

時々、こんな風に甘えてきて子供みたいで可愛いと思うときがある。
それは最近になって特に。


「もぉ!やっぱり冷えてる。
明日も公休なんだし、今日はもう…」
「ん、温まった。
ほら、」


頬に当てていた手を捕まれて、強制的に歩かされる。
向かう先は、多分二人が大好きで、思い出の詰まったあのお店。


「しょうがないなー、もう。」



呆れつつ、顔はにやける。



そう言えば…と思い出したのは、もうじきチョコレートの香る季節。




(今年は何をあげようか…?)



そんなことを思いながら、彼の指に自分のそれを絡ませた。







そう言えばバレンタイン。と思ってね…。









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