僕らには心なんか似合わない


 恋をする人間の心を肯定してくれるひとは、探せば見つかるだろう。この苦しみを憐み、慰めようとしてくれるひとも、きっといる。しかもひとりじゃない。たくさんいるはずだ。

「でもそれは君じゃないだろう」
「わがまま言わないで」
「不公平だ」
「そういうものだよ」

 勝手にどっか行ってごめんね、迎えにきてくれてありがとう。一緒に戻ろう。宿に戻って、ベッドで休もう。わたしはちょっと迷子の途中なので、准くんが頑張ってほしい。

「君は本当に馬鹿でわがままだ」
「うん、ごめん」
「俺だって馬鹿だしわがままなのに、君の前だと霞むのはどうしてだろうな」
「いや、うん、ごめん」
「そういう運命ってことにはならないか?」
「納得感が足りないかな」

 お互いの手をしっかり握って、日が傾く道をゆっくり歩く。ここがどこかはわからないけれど、もう不安はなかった。ただ、寂しさだけがある。
 これでわたしたちの旅行は終わり。わたしたちの物語も終わり。綺麗に終わって、みんなそれなりに満足できたと思うよ。
 来た道を歩いて戻って、日が沈んで朝が来れば、准くんもみんなの知ってる嵐山准に戻っていくだろう。それでみんな、准くんの気の迷いは許してくれるはずだから。

「久しぶりに長めの旅行したけど、ボーダーは大丈夫なの?」
「俺の隊はあまり長期の任務はないからな、休みはみんなが思ってるよりは取りやすいんだ」
「長期ってどういうやつ?」
「スカウトとか、あとは遠征とかだな」

 遠くの話をする准くんが、わたしは好きだ。わたしには出来ない仕事、わたしには訪れない日常、わたしには行けない場所の話をする准くんの横顔が好きだった。

「近界って綺麗だった?」
「ああ。綺麗な場所もたくさんあったぞ」

 わたしの恋心は間違ってなかったんだって信じられる、今が続けばいいと思う。 

「そういえば、俺が遠征に行ってるときに君はどうしてたんだ?」
「いつもと変わらず生きてましたけど」
「そういうものか」
「一応わたし成人してるからね、知ってた?」
「あはははは」

 笑いのツボが嵌ってしまったらしい准くんは満足するまで一人で笑い、顔を上げたとき目元に涙まで滲んでいた。

「あのさー!」
「うん、悪かった、能力の適性は人それぞれだ。君はちゃんと成人してるとも」

 雲が頭上を流れる。暗くなった空の下で、准くんは微笑む。

「だから、戻らなくてもいいだろ」

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