06 仙道彰の弱み
「名前さんと仕事ができるなんて思ってもみなかった」
「それは…良い意味で?」
さっきの仕返しに私も意地悪く聞き返す。
「そりゃあ、もちろん」
「ならよかった」
「この話が来たとき、本当は断ろうかと思ったんだ。今更こんなこと言うのもあれだけど、露出とか目立つのとか好きじゃないしさ」
「確かに。高校生の時も、相田さんからよく逃げ回ってたよね」
相田さんは、陵南の後輩である相田彦一の姉であり、彰に一目置いてくれていた敏腕記者の人だ。
「それにしても、どうして引き受けてくれたの?」
「牧さん」
「え?」
「牧さんから個人的に連絡がきたんだよ。“名前さんに任せた大きな仕事だから引き受けてくれ”って」
「牧さんが…」
「俺にとって牧さんは、あの頃と同じ憧れの牧さんだ。個人的にお願いされたら断れないし、それに、」
「…それに?」
「名前さんの名前出されたら断れるわけないよ」
そう言って彰はクスリと笑った。
近くにあった机に腰を寄りかからせ、
長い脚がスラっと伸びたその姿は、スポーツ選手というよりはモデルのような仕草だった。
「牧さんは、名前さんが俺の弱みだって知ってるんだ」
そう、静かに呟く。
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