14 美味しいご飯
いい匂い。
海苔とだしの香りが鼻を掠め、空腹をこれでもかってくらい刺激してくる。
「ありがとう。でも、オフィス内は関係者以外立ち入り禁止なの…」
「食べたらすぐ帰るよ」
「…ほんと?」
「うん、名前さんと一緒に」
手際よくソースとマヨネーズをかけて、彰は「はい」っとつま楊枝にさして差し出してくれる。
私の話は右から左。
聞いてるけど、聞き入れてはくれないようだ。
「私がいるってよくわかったね」
「今日、この近くでチームメイトと飲んでたんだ。そしたらたまたま名前さんの会社の人がいて、名前さんが残業してるって聞いたから」
「それで、わざわざ?」
「たこ焼き買って、残業中の名前さんに会いに来たってわけ」
きっと奈美ちゃんだ。
彰と会うなんて、すごい偶然だなあ。
「気持ちは嬉しいけど、次はダメだよ」
「何で?」
「さっきも言ったでしょ、このオフィス内は社外秘情報がたくさんあるから関係者以外は立ち入り禁止なの」
「会社って、そういうもんか」
「そう。今日はたまたま誰もいないからよかったけど」
…やっぱり、警備の人にもしっかり言わなきゃ。
彰だったからよかったけど、悪い人間だったら万が一ってこともあるしね。
「たこ焼き、美味しい?」
「うん……って、私の話聞いてる?」
「聞いてるよ。もう勝手に来ないって約束する」
「ならいいけど」
「…で?」
「え?」
「え?じゃなくて、たこ焼き美味しい?」
「美味しい。ご飯食べ損ねてたの」
俺も、と言って彰はもう一本のつま楊枝でたこ焼きを口に運ぶ。
普通の動作なのに、――なぜか私は、たこ焼きを頬張る彼から目が離せなかった。
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