13 たこ焼き
キーボードをタイピングする音と、
時計の秒針の音だけが、誰もいなくなった静かなオフィスに響く。
コピーも埋まり、だいぶ各ページも整ってきた気がする。
10ページと聞けば多い気がするけど、いや、もちろん多いんだけど。
でも、コピーもレイアウトも写真素材も想像以上にスムーズに進んだおかげでもう少しで終わりそう。
対象が知っている人物だから?
それとも、高校生の時に通い詰めたバスケットボールだから?
どちらにしても、今月のこの仕事だけは、何としても売り上げを伸ばして成功させたい。
――奈美ちゃんが帰って、1時間くらい経った頃だろうか。
ガチャリとオフィスのドアが開く音がした。
時計を見れば22時半を回ったところで、こんな時間にオフィスに人がいることは滅多にないのだけれど。
驚いてドアのほうに目を向けると―ーそこには意外な人物が立っていた。
「…彰?」
「やっほ」
「何でこんなところに?っていうかどうやってここまで来たの?正面玄関しまってたでしょ」
21時で会社の正面玄関は鍵がかかるし、
社内に入るには地下から来ないといけないけど、そこには警備員さんが立っているはず。
「ウロウロしてたら警備の人がいたから、忘れ物したって嘘ついて入れてもらったんだ」
「忘れ物って…社員証もないのに」
「この間撮影で来た時みたいに名前さんの部署名伝えたら大丈夫だったよ」
なんというセキュリティーの甘さ…
今度警備の人に会ったら強化するよう伝えよう…
「名前さん、ご飯食べた?」
彰は私のデスクまでやって来ると、隣のデスクから椅子だけ引っ張って隣に腰を下ろした。
その手には何やらすごくいい匂いを発する食べ物があるようで、
「はい、これ」
「なにこれ?って…たこ焼き?」
「そ。屋台で売ってたから一緒に食べようと思って買ってきた」
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