12 ダブル広告塔
「お疲れ様です」
「お疲れ様、奈美ちゃん」
「名字さん、残業ですか?」
「そうなの。この間の企画コピー、今日中に仕上げちゃいたくて」
デスクに散乱している、流川くんと彰の画像たち。
この間撮影した写真データの中から何枚かピックアップして、
さらにそこから絞った数枚を、実際の雑誌と同じ画素で印刷してみたのだ。
そしてちょうどその写真たちとにらめっこしていたところに、同じ編集部の奈美ちゃんが帰ってきたわけだ。
「奈美ちゃんは?直帰じゃなかったっけ?」
「そのつもりだったんですけど、明日の取材直行なのに書類忘れちゃって」
「あらら…」
そういえば、今何時だろう?
…みんなが帰ったことに全然気づかなかったな。
広いオフィス内は、いつの間にか私と奈美ちゃんだけになっていたらしい。
「その写真って、この間の取材のやつですか?」
「うん、そう。どの写真がキャッチにあうかなーと思って」
「そうですねえ…」
「この流川くんの表情も捨てがたいし、このふたりの闘争心剥き出しのアップも捨てがたいし…どうしよ」
スポーツ選手ならではの独特の貫禄というか。
高校時代からのライバル同士ならではの闘争心というか。
目には見えないふたりのバチバチした火の粉に、絶対読者も惹き付けられるはず…!
そのためにベストな写真を選びたいんだけど、なかなか――
「私はこれに一票です!」
奈美ちゃんはデスクに散らばった写真の中から一枚手に取り、私の前に差し出して見せる。
「仙道、くんアップ…?」
「この瞳(め)、いいですよ。引き込まれそう!」
…彰がアップで写っている写真。
「NBAで活躍している流川さんはすでに読者もある程度情報があると思います。だったら、いま注目を集めている仙道さんにフォーカスして読者も知らない情報を届けるほうがいいと思います」
「…うん、確かに」
「それに、ふたりとも写真写りいいから大小はそんなに気にしなくていいかなって」
とても有意義な意見をくれた奈美ちゃんは、それじゃあお先に、と言って嵐のようにオフィスを出て行った。
残った私は、先ほどの写真を眺め、残りの企画コピーを仕上げるため再びパソコンと向き合った。
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