11 結婚?
「それで、」
「はい?」
「今日久しぶりに仙道と会った感想は?」
怒っているわけでも、
ヤキモチを焼いている様子でもなく、
牧さんは綺麗な手つきで食事を進めたまま、少し意地悪く微笑みながら尋ねた。
「特にないですよ。久しぶりだなあ、ってそれくらいです」
「そうか」
「逆に何を期待してたんですか」
「いや?ただ、俺の可愛い彼女が元カレに心変わりしなかったかって確認だ」
「何ですか、それ!今更あるわけないじゃないですか」
「はは、ならいい」
「牧さんと付き合って、私は幸せですよ」
「俺もだよ」
ねえ――牧さん。
私は幸せです。
これでもかってくらい大切にしてもらって。
このままでいい、って本気で思ってたんです。
牧さんとこのまま幸せになりたいって。
「来月、うちの両親に会わないか?」
「え…?」
「お互いいい年だし、親も名前を紹介しろってうるさいんだ」
28歳で親に紹介……ってことは、そういうことだよね……?
牧さんと付き合ってもうすぐ1年。
“結婚”の二文字が過(よぎ)ったことがなかったわけではない。
「…はい」
「ありがとう。よければ今度、名前のご両親にも挨拶する機会があったら設けてほしい」
「わかりました。確認してみますね」
――この時は、本気でそう思ってたの。
幸せになれる、って。
幸せになりたい、って。
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