10 牧さんの思いやり
今から10年前。
私と彰の通っていた陵南高校、
そして牧さんの通っていた海南高校は神奈川では有名なバスケットボール強豪校だった。
当時、彰と付き合っていた私は何度も応援に行ったし、
対戦相手が海南高校だったことも多々かあり、牧さんの存在は知っていた。
『神奈川ナンバープレイヤーの牧さんは、ライバルでもあり憧れでもあるんだ』
目を輝かせながら牧さんのことを説明してくれた彰の顔を私は今でも覚えている。
だから、就職先の今の会社で牧さんのことを見かけたときは本当に驚いた。
昔の面影を残しながらも、
同い年であるはずの彼は、転職組の私とは違い出世コースを着実に進んでいた。
バスケットボールもできて、仕事もできて。
仕事にはストイックだけど、プライベートはこうして優しさを全面に出したような人で。
…私にはもったいないくらいの素敵な人だ。
「昔、仙道と名前が付き合っていたことは他校の俺でも知っているくらい有名な話だ。だからといって、わざわざ引き合わせるような真似はしないさ」
「じゃあ…どうして?」
「単純に今回の企画は、編集部として力を入れている。企画を成功させるために、仙道が必要だと判断した。それだけだよ」
「そう、ですか」
確かに今の日本ではバスケットボールが人気の国民スポーツとなりはじめ、
その立役者は最多得点王に輝き、バスケットボールの魅力を世間に発信している彰と言っても過言はない…かもしれない。
…でも、
「でも、それならどうして私の名前を出したんですか?」
「それも…仙道に聞いたのか?」
「はい」
「そうか。だが、そこに深い意味はないさ」
「本当ですか?」
「本当だよ。今回の企画が成功したら編集者として大きな自信になる。だから、企画を成功させるために俺ができることをしただけだ」
「そうだったんですね」
「これだけは忘れないでくれ。俺は上司としても、恋人としても、名前の成功をいつだって願ってる」
「…ありがとうございます」
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