長編:doting on love | ナノ

08 変わらない過去



一瞬、何が起こっているのかわからなくて。

目の前で机に寄りかかっていたはずの大きな身体が気付けばすぐ目の前に移動していて。


…抱きしめられてるの?私。

…何で?どういうこと。


「少しだけ」


言い聞かすように同じセリフを繰り返す彰。


だけど、私を抱きしめる腕が緩む様子は――ない。


「会いたかった」

「……」

「10年間、ずっと」

「……今更、」

「わかってる」

「……」

「わかってるけど、やっぱり名前さんを目の前にしたら無理だ」

「……行かなきゃ」

「名前さん」

「もう時間過ぎてる。行かなきゃ――」

「名前さん!」


突然発された大きな声にビクッと身体が震えた。


彰は「ごめん」と謝り、抱きしめていた腕の力を弱める。

そして、身体に回されていた長い腕はゆっくりと私の両肩に移動し、再びぎゅっと力が強まる。


「俺を見て」

「…見てる」

「逃げないで」

「…逃げてない」

「会いたかったんだ」

「……」

「10年前のあの日、名前さんは見てたんだよね?」

「……」

「彼女は――」






…ねえ、彰。

10年前のあの日、あの瞬間がなかったらきっと、未来は全然違っていたと思うんだよ。




きっと今も、私たちは――

…一緒に居たんじゃないかな、って思うんだよ、私。




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