呪術廻戦 | ナノ

拾遺



「オマエは久々に、食いでが有りそうだ」

二対の瞳が愉悦に歪む。宣言通りに踏み付けられて、身体の骨が柔らかくしなった。痛みはない。それが却って恐ろしい。この男は加減を熟知しているのだ。どれ位なら大丈夫で、どれ位から壊れるのか。

――を。

「面倒だ、術式は使うなよ。まあ、使った所で防げんが。俺無しでは生きられん様に躾けるのが目的だ。敵意は無い」

宿儺は、私の術式が明確な敵意や殺意に反応する事、逆を言えば肉体的に傷付ける意思が無い接触は防げない事を知っている。

と言うよりも、いくら私の術式が、防御が強固な物だろうと呪いの王が本気を出せばきっといとも容易く私を殺せる筈である。それをしないのはただの気紛れ。言葉通り手慰みの暇潰しなのだ。

邪悪に嗤う呪いの王は、慣れ親しんだ級友の姿形をしている。それに踏まれて、されるがままの私はきっと酷く滑稽だ。

「小娘。オマエは俺が助けてやろう。窮地の時は直ぐに交代させろ」
「そんな事…」

色んな意味で出来る筈がない。呪いの王の安売りか?

「チ、物好きめ…」

踏み付けられて身動きが取れないものの、唯一舌だけは回るので、無意識に心の声が零れ落ちる。

「おい、小娘。オマエ、何を勘違いしている?」

宿儺はそれを耳聡く聞き付けて、私を踏み付けていた足が私の眼前に降りて来た。そのまま爪先でおとがいを持ち上げられる。視線が交わる。

「オマエの痴態を嘲る為に、この俺がオマエ如きと綢繆すると思うか?」

腕を組み、心底不愉快という表情の宿儺に見下される。

「珍獣を物珍しがるからと言って番いたがる奴は居ない」

吐き捨てる様に言う。私は珍獣扱いか。

「あなたって人は…」

その後に続く言葉は飲み込んだ。傲岸、傍若、横暴、邪悪。形容する言葉はいくつも浮かんだけれどそれは宿儺が持つ恐ろしさの上澄みを修飾するに過ぎない。そんな言葉の羅列でこの男の恐ろしさは測れない。

「ケヒッ…あなた、か。夫婦気取りも悪くないが」

そう言って嗤う宿儺を地べたから見上げて、愉悦の色濃い二対の瞳からは見下されて酷く暗澹とした気持ちになる。

「精々、佞言を言い秋波を送って、俺のご機嫌伺いでもする事だな」

呪いの王。
五条悟が最強の呪術師である様に、宿儺もまた呪いの王として君臨している。私達呪術師は呪物としての彼の指すら破壊出来ずにいる。そう、宿儺は傲岸で傍若で横暴で邪悪だけれど、そこに暗愚は無い。例え人格が破綻していようとも宿儺はその纏う雰囲気で相対した者に畏怖や畏敬を抱かせる。ただ強いだけの愚か者では王などと形容されないだろう。

私は、泥梨の様な二対の眼を見つめていた。

宿儺は恐い怖いコワい…畏敬し、畏怖すべき存在。

自分はとんでもない物に触れてしまったのだ。あの時、虎杖悠仁の中身に触れてしまった事が全ての始まり。

「あっれれ〜、またお取り込み中?」

この声は。

「皆の窮地に呼ばれて飛び出るグッドルッキングガイ」
「五条先生」
「え、名前って宿儺とそう言うプレイする関係だったの?」
「ごじょせん、巫山戯てンすか。どうやったらそう見えるの」

と言うか如何してここに?そう問えば「僕の任務が早く終わったってのもあるけど、伊地知が名前達が危ないって泣き付いて来たの」そう言って良い笑顔をするごじょせん。

「僕は君達の担任だからね」
「じゃあ、伏黒と野薔薇は?」
「無事だよ。名前と悠仁が心配で急いで来たんだけどこれ、」

呪霊は宿儺が倒してしまった。五条先生は辺りを見回してから、最後に宿儺を見た。

「ごじょせん、実は…」

私は観念して、何もかも白状しようと口を開いた。

「知ってたよ」
「私の術式で、って…え?」
「実は僕、六眼持ちなんだ」
「それは知ってます」
「名前の術式が悠仁にどう作用するかは大体想像が付いてたし、僕の目で見ればすぐに分かる」
「じゃあ」
「分かってて黙ってたの。名前の術式で宿儺と悠仁の主導権をコントロール出来ないかと思って」

つまり。

「謀ったな、ごじょせん」
「まあまあ。今回の事は僕と伊地知で握り潰すから、そう怒らないで」

先生は、上層部の奴等も汚い手使って来るんだからおあいこさ。と、どこ吹く風だ。

「ごじょせん、過激よね」
「よせやい」

所で。と柄にも無く私と先生の遣り取りを見守っている宿儺に歩み寄る先生。

「大人しく悠仁に代わる気はあるかな?」

口調は軽薄のままだけど、隙がない。
宿儺の方は腕を組み、爪先を私のおとがいから外す。そして口の端を邪悪に釣り上げた。

「そこの小娘に間抜け面で見上げられて興が削がれた」

よりにもよって間抜け面とは。人を揶揄うのも大概にして欲しい。でも――。

「おい小娘。俺の言葉、努努忘れるな」

すう、と紋様が引いて行く。次の瞬間、そこに居たのは見慣れた級友そのものだった。

「あれ?俺…あっ、名前!」

虎杖は自分の眼前に跪く私を見て、それからごじょせんを見て、最後に辺りを見回してから酷く混乱した表情で「名前って何でいつも俺の下で寝転んでんの?」と言った。


back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -