呪術廻戦 | ナノ

1年ズの日常はざわめいている



午後の授業は二人ずつペアを組んでの基礎鍛錬だ。私は成り行きと言うか必然と言うか虎杖と行動する事が多いので今日も今日とて虎杖と一緒に対人格闘をやっていた。虎杖は喧嘩が凄く強い。

「名前って、呪力抜きの対人格闘めちゃくちゃ強いよな」
「虎杖程じゃないけどね!流石に素手で鉄コン割れない」

虎杖は躱すのも上手いし、何よりただの突きですら一般ピーポーなら当たれば致命傷レベルだ。だから腕力でやや劣る私は確実に虎杖の攻撃を避け続けて且つこちらの突きを当てる好機を淡々と狙う。
虎杖の右ストレートを躱して、重心を立て直す。

「向こう人間の会話じゃねーんだけど」
「同意」

野薔薇が呆れた声を出し、伏黒が追従した。

私は、虎杖が野薔薇と伏黒ペアの会話にほんの一瞬気を削がれたのを直覚した。虎杖に対して半身を切り、上段と中段に一拍の内に打撃を入れる。顔を守れば腹が、腹を守れば顔が空く。余程の鍛錬を積んでないと両方同時に躱す事はまず出来ない。

「あぶねー、貰っちまった」
「その割には元気そうだね!」

虎杖の腹に一撃入れたものの、浅かったのか虎杖が丈夫すぎるのか、恐らく後者だと思う。が、とにかく反撃の隙を与えてしまったからにはカウンターが飛んで来るのは必至。

その時。

「や〜、お待たせ!ちょっと名前がコンビニでシメたヤンキーの件と領域展開の件で上層部と話つけてたら遅くなっちゃった」

めんごめんご!と現れたのは五条悟。私達は突然の担任の推参に、一旦手だの足だのを止めた。

「さらっとパワーワード」
「俺の耳がおかしくなった訳じゃないんだな」
「相変わらず暴力の総合デパート」

上から野薔薇、伏黒、虎杖の順番で思い思いに感想を述べる。

「よせやい」
「最後のは褒められてんのか?疑惑のデパートみたいな使われ方してるが」
「伏黒、私あんたが元ヤンだって知ってんだかんね」
「どこでそれを…」
「コンビニでシメたのが伏黒の元舎弟だった。世界は狭いな」

耳元でそっと囁いた。ああ、伏黒の目が泳いでる、泳いでる。

「名前ちょっと良い?」

ごじょせんが手を上げて私達の遣り取りを遮った。手招きされるまま先生の元まで駆けて行く。

「名前の領域展開。生命への不可侵を強制する。とんでもない技だよ」
「そうかなあ。だって敵も傷付かないんですよ?意味ない様な」
「名前の領域内では決着が付かない。敵からすればこんなにもどかしくて嫌な事はないんじゃない?」
「やっぱ性格悪いって事すか」
「僕は名前のそう言う素直な所気に入ってるけどね。近頃はお行儀の良い子が多過ぎる」

瞬きをばちばち繰り返して、一瞬思案して、それからごじょせんを見上げた。

「もしかしなくても褒めてます、それ?」
「がっつり褒めてる」

布のお陰で視線は交わらないけれど、ごじょせんに微笑みかけられて、私はちょっとはにかみながら頷いた。

「ジジイ共も取り敢えずは大丈夫。でも、課題はまだまだある。名前の領域展開はまだ下書き状態。これからもっと綺麗に仕上げて貰わないと」

ごじょせんが良い笑顔で言うのを、虎杖、伏黒、野薔薇がその背後で聞き耳を立てている。それを知ってか知らずかごじょせんは続ける。

「でも本当に急成長だよ。これはもう、宿儺のおかげ」
「宿儺?」

思っても居ない名前に私と、何より虎杖が目を丸くした。

「普通の子は宿儺と何度も遣り合えない。まず死んじゃうからね。でも名前はそれを何度もやってのけた。これは尋常じゃない経験値」

だからさ、とごじょせんが虎杖を方を気に掛けつつ私を真っ直ぐ見据えた…布で視線は追えないけど、見据えていると思う。

「これからも虎杖と行動して、隙あらば宿儺と遣り合ってね☆」

キラッという効果音付きで言われて、私はさっきまでの褒められて嬉しかった気分が今は萎んで、身体の力が抜けた。担任のお墨付きの元、隙あらば呪いの王と、だなんて。

虎杖達がこちらに駆けて来た。

「良い良い、暇潰しだ。小娘の伺候を許す」

虎杖の下眼瞼で邪悪が開眼し、頬が裂けて、傲岸不遜が現れる。

「わーお、呪いの王が協力的な内に一発どう?」
「今はいいです…」

嬉しそうなごじょせんと対称に、気乗りしない私。

「何、跪かせた仲だ。遠慮するな」

相変わらず嗜虐を帯びた声で悪びれもせず言う。

「遠慮してない」
「俺に躾けられるのがそんなに嫌か?」

皆の前で新しい扉開かせようとしてくるの止めてくんないかな切実に。私はまだそこまで堕ちていない筈。

「ちょっと黙ろうかドSの王」

私は不機嫌な声を出した。それが伝わったとは思わないけど、代わりに虎杖が口を開いた。野薔薇と伏黒が「ドSの王…今ドSの王って言ったぞ」とざわついている。

「なあ、宿儺と名前っていつの間にそんなに仲良くなったんだ?」

私が返答に窮して先程の伏黒よろしく目を泳がせていると、宿儺が次の冷やかしの標的を虎杖に定めた。

「何だ、男の悋気は見苦しいぞ」
「そんなんじゃねーよ。何見てそう思ってんだよ」

虎杖が自分で自分の顔をばちんと叩き宿儺を押さえ込もうと試みる。それを文字通り嘲笑いながら虎杖の手の甲に再び宿儺が現れる。

虎杖と宿儺の、埒が明かない攻防をぼんやり眺めている内に午後の授業が終わりを告げた。野薔薇は虎杖のあちらこちらが裂ける様子を横目に「付き合ってらんないわ」と行ってしまった。ごじょせんと伏黒は止めてやる様子も無い。

まあ。取り敢えず、修行でも躾でも何でも良いけど、宿儺の生得領域に干渉するのは次の機会におなしゃす。


back


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -