名前の話をまとめるとこうだ。

木の下で眠る俺に一目惚れして、また会いたくて木の下に来てみたら猫がいたから遊んでいたら、俺が現れて突然の交際要求。ちなみにこのときに聞こえたドォンおいう音、俺ではなく名前からしていた音らしい。
びっくりしすぎて逃げてしまい、次に会ったときにもまた告白。一目惚れした相手がこんなにちゃらついた人間だとは思わなかったとショックで、俺に対する気持ちに蓋をしようとしていたらしい。

名前の気持ちが音になって聞こえてこなかったのは、それが理由だったようだ。

それでも俺が好きだ好きだとうるさいから、信用できそうな炭治郎に、本気で言ってるのだろうかと相談した。当然炭治郎は「匂いでわかる!本気に決まってる!」と教えてくれたらしい。俺には好きって気持ちを悟られたくなかったから、それは内緒にしてほしいと頼んだそうだ。

そうやって名前が炭治郎に信頼を置き始めた頃、きっと俺の耳には彼女が炭治郎に向ける好意の音が聞こえるようになったのだろう。次第に名前に"好き"という言葉を伝えなくなる俺に、やっぱり好きなんて嘘なんだ…と落ち込んでいた矢先、暗闇のなかでキスをされていることに気づいてしまった。
好きでもないのにそんなことをしないでほしい、というかやっぱり好きでもないのにそういうことができるのか、とショックを受けたそうだ。

俺が炭治郎に名前とうまく話せないとこぼした時、炭治郎がやけに慌てていた理由が、今ならわかる気がするな。

今日ここに来たのも、この間の出来事を炭治郎に相談したら「善逸も落ち込んでいた!君たちは好き合っているんだから素直になったほうがいい!」と背中を押されたかららしい。

炭治郎、ナイスアシストなんだけど、お前ばっか名前に相談されてて、ちょっと妬ける。

それにしても俺たち、ものすごいすれ違いを繰り広げていたんだなあと、これまでのやりとりを思い返し、思わず苦笑した。


もう一度芝生に寝そべった俺の腹の上には、シロが気持ちよさそうに眠っている。隣に膝を抱えて座る名前からは、ずっと、ずっと、好きって音が聞こえてくる。聞いてるこっちが照れくさくなるくらい、まっすぐに。

「ねーねー我妻」
「んー?」
「我妻はわたしのこと好き?」
「…いや、今さらそれ聞く?」
「だってわたしはさっき好きって言ったけど、我妻からは好きって聞いてないよ」

その前に言っただろ、と思ったけど、名前の精一杯の告白には応えてやろうと思い、照れくさくてそっぽを向きながら「好きだよ」と呟くように言ってみる。へへ、と彼女が嬉しそうに笑う声が聞こえた。

「……いっぱいひどいこと言ってごめんね」
「…俺のほうこそ。付き合ってもないのにキスしたりしてごめん」
「今日からは付き合ってるってことでいいんだよね?」
「う゛んん! うん、いい…すごくいいと思います…」
「じゃあ、またしてね」

"キス"

そう言って名前は笑った。
俺が一目惚れしたあの日見た笑顔と同じように、今度はシロに向かってじゃなくて、俺に向かって。胸がきゅんと鳴るのと同時に、上体を起こした俺は彼女の後頭部に手をまわしてやさしく口づけた。
唇が離れると額どうしをくっつけて、熱に浮かされたような瞳で俺を見つめる名前に「俺のことも名前で呼んでよ」と呟く。

俺が上体を起こしたことで腹から落ちたシロが、俺たちを見つめている気がした。

「………善逸」
「いっ………いいじゃん」
「……ほんと?善逸」
「…うん。好きだよ、名前」
「ば、ばか、もう言わなくってもいいの」

そうやって笑いあう俺たちを祝福するかのように、シロがみゃおうと鳴いた。


たくさん遠まわりをしてやっと手に入れた、俺にはめちゃくちゃそっけなかった名前の気持ち。

お互いの気持ちを認め合ったその日から、あんなに意地っ張りだった名前が突然素直になり、俺はそのかわいさにしばらく苦しめられることになるんだよなあ。
幸せだから、なんだっていいけど。



俺には好きな女の子がいる。
見た目も、中身も、とびきりかわいい女の子。
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