それからと言うもの、俺は講義のたびに天使に話しかけにいった。いつも炭治郎とセットで。

それなりに話せるようになってわかったが、彼女は見た目に反してすごく気が強かった。笑っていると本当に天使のようにかわいいが、基本つんとした表情でしか、俺とは話してくれないんだ。
それでも俺は彼女が好きだった。ツンデレってやつなのかな?と都合よく捉えていた。実際、真っ白なほっぺをぷくっと膨らませて俺に悪態を吐いたりする姿は、たまらなくかわいかったし。

それに、シロを愛でるあの姿を、優しい手つきを、忘れられなかったから。それだけで、彼女がすごく優しい子と示すには十分だった。

でも、困っていることが3つある。

1つめは、彼女から俺に向けられている音は、蓋がされたようにこもっていて、なにを考えているのかいまいち掴めないこと。でもその不明瞭さは、俺に向けられている音限定だった。こんなことは今までなかったから、肝心な時に役立たずな自分の耳を呪った。

2つめは、炭治郎から、最近何かを隠してる音がすること。別に体調が悪そうだとか、そういった心配はまったくなさそうなのだが、何か隠しているのは間違いない。けど、炭治郎は理由もなく俺に隠し事をするようなやつではないとわかっていたので、きっと何か考えがあるのだろうと思って、あえて追及はしていなかった。

そして3つめ。これが1番困っていること。いつしか彼女が炭治郎に向ける音が、好意の音になっていたこと。いつ会っても好きだとか可愛いだとかそんな言葉ばかりを投げる気持ち悪い俺を、フォローするのはいつも炭治郎だったから。
俺の隣にいるやつは、それだけできっと至極まともで格好良く見えるんだ。しかもそれが、炭治郎ときた。無理もないだろう。

その好意の音が、彼女が炭治郎に惚れているという確信を示すものではないにしても、俺はなんとなく彼女に明確な"好き"を伝えるのをやめるようになった。もちろん、めちゃくちゃ大好きだったけどね。

でも、それがかえってよかったのか、ほんの少し俺への警戒を解いたらしい彼女は、以前より俺と話してくれる時間が増えた。俺も炭治郎への嫉妬心と自分の情けなさとでなんだか素直になれなくて、売り言葉に買い言葉、みたいな会話が増えてきてしまい、どうしたもんかなあとは思っていたけど。


大学内の食堂で、いつも通り俺たち3人は昼食を取っていた。手で直に豚カツを掴んで食べる伊之助に「きたねえな!」とつっこみながら、俺は炭治郎に話しかけた。

「なあ炭治郎」
「どうした?善逸」
「最近、天使とうまく話せない」
「え!?ど、ど、どうしてだ!?」

なんでお前がそんなに動揺するんだよ。
あの子の音がお前を好きだって言ってるから、なんて言えるはずもなく、俺は食べかけの坦々麺を放置して椅子の背もたれにもたれかかって体勢を崩す。「あーあ」と情けない声をあげていると、視界に今では見慣れた絹のような長い髪が映った。

「あがつま!」
「…あ、噂をすれば」

「なに、悪口?」と唇を尖らせた彼女は、俺のことを名前で呼ばない。しかも呼び捨て。炭治郎のことは、"炭治郎くん"って名前で呼ぶくせに。心の中で舌打ちしながら、「よ、名前」と気怠げに片手を振って見せた。本当は、こんなところでばったり会えて、たとえようもなく嬉しかったけど。

彼女は友人らしき女性2人といた。2人も可愛らしかったけれど、俺の目には彼女しか映らなかった。「せっかくだし一緒にお昼を食べよう」という炭治郎の提案に、向けられたのは素手で飯を食う伊之助への視線。炭治郎は「き、気にしないでくれ!」とフォローに忙しそうだった。

結局俺たちは6人で食堂でやいのやいの騒いだ。今思うと、なんか合コンみたいだよな。まあ仮にこれが合コンだったとしても、俺は天使一択なんだけど。そう思ってチラッと彼女を見遣ると、気まずそうに目を逸らされてしまった。


食堂で予想以上に話が盛り上がった俺たちは、週末みんなで家に集まってたこパでもしようという話になった。彼女と炭治郎が密室に一緒にいることで、俺の耳は聞きたくない音でいっぱいになってしまうのでは?と嫌な気持ちにつぶされそうになったが、いや、今は単純に、彼女と一緒にいられる時間を楽しもうと決めた。

会場は、一人暮らしをしていた俺の家に決定した。最後までやめてくれと懇願したが、それはついに叶わなかった。
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