Nobody is perfect

一見順風満帆に見えて闇を抱えた生活をどうにかしたくなった俺は、まず複数関わりを持っていた女の子たちとの接点を薄くした。なぜ一人の子ではなく、数人と関係を持っていたかって、それも満たされなかったからだろう。けれど、その子たちが俺の中身や芯の部分ではなく、風貌や仕事での立ち位置しか見ていないという俺の予想は悲しいかな的中しており、みんなあっさりと引き下がっていく。

そんな中、一人、どうしてもまた会いたいという女の子がいた。俺も誰でも良かったわけではなく、関わりを持っていた女の子たちには多少なりとも好意があったので、半ば賭けのような気持ちもあったが、その子だけを見つめてみるのはどうだろうかと突如考え浮かぶ。

もう一度会う約束を取り付け、喫茶店で落ち合ったときに、重くならないように打診した。

「善逸くん、また会ってくれてありがとう、嬉しい」
「ううん。俺も嬉しいよ、ミルクティーでいい?」
「うん!好きなものも覚えててくれてありがとう」

「記憶力はいいからね、俺」と笑いながら、店員を呼んでミルクティーとブラックコーヒーを注文する。目の前の彼女は頬杖をついて、満たされたような表情で恥ずかしげもなく俺を見つめていた。俺といるだけで、どうしてそんな顔になれるのだろう。心音もとくんとくんと柔らかい。この子は一体俺の、何を魅力と感じているのだろう。

「……ところで提案があるんだけど」
「え?なあに?」
「俺と付き合ってみるってのはどう?」

突然の提案に呆気に取られた彼女はしばらく口を開けたままぽかんとしていたが、運ばれてきたミルクティーとブラックコーヒーがテーブルに置かれる音ではた、と我に返っていた。そして俺の瞳を捉えて「いいの?」と疑問符を浮かべる。いいのかどうかは、俺も正直よくわからない。何せ、俺に彼女がいたのは大学四年の時が最後だ。それからまともな恋愛なんて、丸二年はしていない。でも、このままではだめだと思ったのだ。このやり方が正しいのかはちっともわからないが、どうにかこの闇から抜け出したくて、「うん」とだけ答えた。

そうしてこの日から、俺には彼女という存在ができたのだ。



彼女は、良い子だった。愛想も良く、美容関係の仕事をしていたから見た目にも気を遣っていて、いつもいい匂いがする。休みも不定期同士で合わせやすかったため、休日は遠出をしたり、お互いの家に遊びにいったりして、それなりに充実した日々を送っていた、のだけど。

付き合って数か月が経った頃から、欲しいものをねだられることが増えてきた。会おうと言っていた日、ドタキャンされることもあった。始めこそ、俺に向けられている音は"好き"というものだったように思うが、それもそのうち、篭ったような音に変わっていった。

ああ、きっとこの子も俺自身ではなく、販売員として業界では名を馳せている俺だから良かったのだろう。付き合ってデートをしたって、仕事をしていない俺は彼女にとって、隣に置いておくにはちょうどいい見て呉れの、欲しいものをねだれば買ってくれる、そのくらいの存在だったのだろう。

馬鹿馬鹿しい。彼女という存在を作ったところで、お互いを思いやれなければなんの意味もなかった。無謀な提案をしたのは俺だが、思い返せば後先を考えていなさすぎる軽はずみな行為を、悔やむほかなかった。



付き合って、半年ほどが経とうとしていたある日。
本当は彼女と会う予定だった休日の前日に、明日は行けなくなったと連絡が来た。もう何度目かわからない。昔から彼女という存在にはとことん甘かった俺は、毎回この行為を許してしまっていたのだが、この時はなんだかどうでも良くなって『他の男?』と連絡を投げてしまった。

すぐに弁解の電話がかかってきたが、どう考えてもそうだろう。この頃の彼女にとって俺は最早、数人の相手のうちの一人くらいの感覚だったと思う。別段それに傷つくこともなく、俺の心も冷めきってんな、と他人事のように考えていたところ、電話口でもそれが伝わったのか喧嘩になり、『善逸くんなんてもう知らない』と電話を切られた。これが本当に疑問で、なぜか別れるには至らなかったが、その日からほとんど彼女と連絡を取ることはなくなった。


心の中は、俺はもうとにかくがむしゃらに仕事を頑張るしかないと、諦めの気持ちで覆い尽くされていた。服が好きという思いを糧に、いつだって仕事だけは頑張ってきたのだ。気持ちは晴れなくとも、仕事はしなければならないし、しないと張り合いも持てない。そして、プライベートのあれこれを仕事に持ち込んでしまうほど、俺は不器用な男ではないのだ。


とある出勤日、新調したコットンリネンのセットアップに袖を通すと、ダークブラウンの色味が肌によく馴染む。ほどよくカジュアルダウンされたデザインで、オーバーサイズのジャケットと、バギーまでは行かないがワイドシルエットのパンツに、一目惚れして購入した。インナーには、ブルーのロゴとアメコミ調のキャラクターがプリントされたTシャツを。そして、セットアップを着るときは、足元はローテクスニーカーにするのが、なんとなく俺のポリシーだった。

珍しく前髪を上げてみた。気合を入れたい日は、いつもそうする。これもなんとなく、俺のポリシーだった。

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