Summer night magic-3


くだらない話をしながら我妻と過ごす時間は、いつもあっという間に終わる。過去に一度だけ、一緒に映画を観るという、本当にデートのようなことをした。映画鑑賞の時間の分、我妻と話す時間が短くて、なんか物足りないなと思ってしまったりしたなあ。そういえばそのときも、映画のチケットを買っておいてくれていて、ずるすぎてむかついた記憶がある。

思い出して眉を顰めてしまっていると、頬杖をついてこちらを眺める我妻に「なまえ、すごい顔してんぞ」と指摘された。あんたのずるいところについて考えてたんだよ、なんて言えるはずもなく、「もともとだわ」とまた天邪鬼な返答をしながら、ちらりと手元のスマホを見る。

知らされた時間は23時45分。5時間近くこの店にいることになる。
そして、終電の時間が、もうすぐそこまで迫っていた。

それをわたしはわかっていたけれど、あえて話題には出さない。こんなことは、今までしたことがなかった。でも我妻がずるすぎるのがいけないので、今日は、もう少し一緒にいたいと思ってしまったんだ。本人には言わないし、きっと、多分、お酒のせいだけど、我妻だってそういう話題を出してこないんだから、おあいこだよね、って思う。だからわたしは何も知らない振りをして、不自然にならないように、氷が溶けて薄くなりきったアルコールを嗜む我妻に話しかけた。

「…そいえばいま何時?」
「ん? ……え、もう24時すぎてる」
「うそ! わたし終電いっちゃった」
「…俺もなんだけど」

なんて、知っていたけれど、白々しすぎる嘘を吐いた。そっか、我妻もかあ。じゃあもう朝まで一緒にいるしかないね。内心はめちゃくちゃにやにやしながら、できていたかはわからないが、面倒くさそうな振りをした。

「朝まで時間つぶしかあ…」
「俺は別に全然いいけど。なまえは平気なの?」
「……我妻、わたしアイス食べたい」
「はあ?アイス? …買い行く?」
「うん、食べながら夜道お散歩しようよ」
「随分と能天気だなお前」

「朝まで何するかね」と、当たり前のように一緒にいてくれるようだ。我妻はわたしのこういうどうでもいいわがままを叶えてくれることを知っていた。アイスが食べたいと突然言ったって、呆れながらも最後には「買い行く?」と聞いてくれる、そういうところが本当にずるくて、好きだ。

終電は逃してしまった。いや、逃したって言ったほうがいいのだと思う。随分と長く滞在した居酒屋を後にしたわたしたちは、お酒で熱くなった体を夜風で冷やしながら、アイスを求めてコンビニへと向かった。



到着したコンビニで、わたしはアイスよりもいいものを見つけた。花火だ。花火がしたいと騒いだら、さすがに「公園でしたら怒られるからダメ」と最初は咎められたけれど、お酒の入ったテンションでしつこく言いつづけたら、また我妻は「しょうがねえな」と言ってくれた。交換条件として、アイスはわたしが奢った。

昨日は自転車に乗ってひとりで受けていた冷たい夜風を、今日は我妻と二人で受けながら、棒アイスを頬張る。わたしたちが並んで歩く時は、手が触れるか触れないくらいの、微妙な距離感。今日はなんだかいつもより我妻が近くにいるような気がしたけれど、心臓がえらいことになりそうだったので、気のせいということにした。

あえて少し距離のある公園を選んだわたしたちは、数時間歩いて目的地に到着した。我妻はわたしに負けないくらいに楽しそうに花火の準備を始める。買ってきたライターで、慣れない手つきで花火に火を灯すと、闇に包まれた公園に光が広がっていった。

「こうやってさあ、速くまわすと、絵が描けるんでしょ」

そう言って花火を振り回すわたしを避けながら、「あぶねえよ!」と我妻は笑う。高速で花火を動かすと、残像で絵が描けるとテレビで見た。パシャ、とシャッター音が聞こえる。花火が燃え尽きたタイミングで我妻に近づくと、「すご、絵描けてる」と写真を見せてくれた。近くなった距離と、わたしのおふざけに付き合ってくれたことが嬉しくて、またどきどきしてしまった。



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