Summer night magic-2


翌日の授業は3限のみだった。やつの指定した待ち合わせ時間は、今時期はようやく太陽が沈み始める、19時。大学に行くだけでも汗をかいたわたしは、一度帰宅してシャワーを浴び、全身着替えて髪も巻き直したし、お気に入りのピアスや香水だってつけた。いや乙女かって。自分で思っておきながら恥ずかしくなってしまい、電車内でなんとなく口をぎゅっと結んだ。

待ち合わせ場所は、行く予定の居酒屋の最寄駅。それなりに栄えているので、改札前は人でごった返している。きょろきょろとあたりを見渡しながら改札を通り抜けると、金色の髪を携えた、いやでも目立つ我妻の姿が見えた。わりと早めに着いたつもりだったのだけれど、彼は普段からそうだ。待ち合わせに遅れてくることがまずない。普段の雑な態度とは真逆の紳士的とも取れる行動に、いつもしてやられた気持ちになる。

「我妻、やっほ!おまたせ」
「んーん、待ってないよ。あちいねえ」

「急に暑くなったから服が追いつかんよ」とTシャツの胸元をぱたぱたと仰ぎながら言うわりには、お洒落な格好をしている。今日は白いTシャツと、スカイブルーに黄色いストライプの半袖シャツ、チノパンというのかな?太めのベージュのパンツを合わせて、勝利の3本線が描かれた白いスニーカーを履いていた。そう、我妻はお洒落だ。身長もすごく高くはないが、細身でそもそも服が似合うの、ずるいなと思う。そして暑くなったからか、髪をハーフアップにしてるのも、髪をかけた耳から覗く小ぶりなピアスも、本当にずるすぎると思う。

上から下まで舐めるようにして、歩き出した我妻の背中を見つめてしまう。ちらりとこちらを振り返られ、頸に手を添えながら「なに?」と首を傾げられれば、今度は思わず格好いいと思ってしまった。

「なんでもない、暑いね」と誤魔化して、慌てて目を逸らした。

目当ての居酒屋は、以前我妻とサークルの飲み会でなんとなくした会話の中で出てきたお店だった。お店を囲むように、外にも飲食できる席が設置されていて、ちゃぶ台と座布団のみで形成されるそのスポットに、わたしがなんとなく興味があった。ちょっと話しただけのことなのに覚えてくれている我妻はやっぱりずるいし、お店に着いたら予約をしてくれていたのとかも、もうわけがわからんくらいずるい。

「なまえはレモンサワー?」
「うん! 我妻はビール?」
「そうだなあ、今日暑いしね。まあいつもビールだけど」

そう言って我妻は、慣れた様子でわたしの分のドリンクまで注文してくれた。おつまみも適当に頼んでとお願いしたら、「しょうがねえな」と言いながらもわたしの好きなものをチョイスしてくれる。今日これから何回、ずるいと言えばいいのやら。

「今日はがっこ忙しかった?」
「ううん、3限だけだよ」
「めっちゃ暇じゃん。だからめかし込んでんの?」
「はあ?もう少し褒め言葉っぽく言ってもらってもいい?我妻こそお洒落してるじゃん」
「俺はいつもこうでしょ」
「わーすごく鼻につく」 

わたしたちの会話なんていつもこうだ。わたしは本当に可愛げがない。いや、でも、めかし込んでるとか、ほかにもっと言い方あるでしょ。我妻に会うからいろいろと準備をしてきただけに、ちょっとだけショックな自分がいた。

ぶすくれていると、店員がお酒とおつまみを運んできてくれた。レモンサワーと、ビール―ではない、何か。我妻の前に置かれたそれをわたしはきょとんとして見つめてしまったけれど、彼は何も言わずにジョッキをわたしのほうへ差し出してきた。

「ん?乾杯は?」
「いや、我妻ビール頼んでたじゃん」
「あー、いいよ別に、作り直すの面倒だろうし。またあとで頼む」

「ほら」と促されるまま、レモンサワーを手に持って我妻のジョッキとぶつけると、かちんと小気味よい音が鳴った。そのままごくごくと、ビールではない何かをすごい勢いで飲み進める我妻の喉仏を、じっと見つめてしまう。

こういうときの優しさや配慮、ほら、またずるいと思っちゃった。



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