ぜろいの | ナノ


◆陽だまりの戯れ  





 この時間帯の授業は眠くなる。そういうとき、時々、替屡リザと言葉遊がふと教室から姿を消すことがあるのだ。それは本当に時々で、こうして日が高く柔らかく、おなか一杯食べたあとの昼休み。絶対に、そうだった。いつだってその時間帯だった。彼らがいなくなるのは、決まってそういった時間だったのだ。
 言葉遊はひっそりと授業中の階段を駆け上った。そういうとき、彼は決まって屋上にいるのだ。本来立ち入り禁止なのだが、「言葉遊び」という異能の前でその鍵は意味を成していなかった。午後一番の授業をさぼって、鍵をなんなく開けて、彼は明るい空の元へ出る。屋上から見る切り取られたような絵に描いたような青空。その下でころりと寝転がっているリザの姿を見て、そして言葉は彼に駆け寄った。
「リザちゃん、寝てんの?」
 制服のポケットからアークロイヤルのパラダイスティーを取り出すと、安っぽいライターで火をつけた。言葉のそんな声に、リザがうっすらと目を開ける。
「……煙草の煙、こっちにやるなよ」
 薄く目を開けてそう言う彼に、くすりと微笑みを返す。煙草の香りと、日向特有の暖かい香り。ゆるりと目を閉じてもその香りがする。それが、すぐ横に言葉遊がいるということを証明しているような気がした。
 煙をこっちにやるな、と言っているにも関わらず、横に腰掛ける感覚があった。やはりまた薄目を開けて、そして彼を見やる。煙草を咥えるのが似合わないほど、まだ子供だった。
「煙草さぁ、」
「ん?」
「やめないの?」
「口寂しいからね」
 そういって一口、煙を吐き出す。青い空の中にゆるっと漂う柔らかい色に目を細めた。そのまま上体を起こし、彼の瞳を見つめる。煙草はもうとっくに短くなっていて、今にも灰が落ちそうだった。
「灰」
「あ、やべ」
 ポケットから携帯灰皿を取り出すと、そのまま煙草をその中に入れた。
 屋上には柔らかい紅茶の香りと、そして苦い煙草の香りが漂っていた。そのまま上体を起こしたリザの横ににじり寄ると、ころんと横になる。
「ここ、体痛くならねえ?」
「……ん?」
「別のとこ行く?って、思ったんだけど」
 そういえば、言葉はゆっくりと微笑んで彼を見る。口角を持ち上げるその微笑みは、ただ本当に愛しいものを見るような微笑にも見えた。
「日向ぼっこだから、いいよ。リザの横でお昼寝したいし」
「……そ」
 そういって、体を横たえる。すぐ横に流れるような黒髪が伸びていて、その髪先を掬いあげた。まだ授業中だ。ここに来る人はいないだろう。少しくらい触れても、誰も見ていない。
 そう思ってゆっくりと、その髪先に口づけた。
「リザちゃん?」
「あのさぁ、口寂しいの?」
「そうだから煙草吸ってるんだよ」
 そう返せば、ぼんやりとリザが微笑んだ。半分、意識が眠りに落ちているような。そんな感覚で、彼は口を開く。親指を彼の唇に添えて。
「キスしてやろうか、遊」
「……してくれんの?」
「口寂しいときにね」
 そういってくす、くすと笑う。そのまま少しだけ近づいて、ぎゅ、とその体を抱きしめた。今この瞬間だけは、二人きりだった。


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