心を奪うその瞳 | ナノ
真っ赤なトマト



朝、セラの部屋に行ったのに当の本人がいなくて食堂に飛び込んだオレのせいで食堂はちょっとした騒ぎになった。

朝って言っても、甲板で寝ちゃって、夜中に目を覚まして部屋で寝なおしたからお昼近くになってたけど。

二日酔いで苦しそうなシャチと、ちょっと隈の濃いペンギンも遅めの朝食を取ろうと食堂に来ていたけれど、"セラがいない!"というオレの言葉に二人もご飯を食べず船を捜索した。


どこにもいなくて、一度食堂に戻るとそこには同じことを考えたのか二日酔いの頭痛を抱えながらのシャチと、ペンギンも戻って来ていた。


ア「今日から食堂デビューか!」


アシカの大きな声が聞こえ、三人で食堂の奥に進むとそこにはキャプテンとセラが立っていた。

べ「セラ!」


オレの声に振り返ったセラはいつもは前髪で隠れていた目をこっちに向けてくれた。

シ「セラ、どこ行ってたんだよ?ベポがいないって騒いだから探しちまったぜ」

ペ「今日からここで食べられそうか?」


二人もオレもセラに歩み寄ると、スケッチブックに"おはようございます"と書いて頭を下げた。

キャプテンに連れられ、朝食のプレートを持ったセラ。とっても少ないご飯にオレとシャチは心配になった。


シ「セラそれだけか?もっと食べて大きくなれよ」

べ「セラ、オレのあげるよ!」


ちょっと止まって、キョトンとした後自分のプレートを見てその後隣に座っているキャプテンを見る。キャプテンはコーヒーだけで他は何も食べていない。

−船長さんは、食べないんですか?−


ペ「あぁ、いつもそうだ。本当は少しくらい食べて欲しいんですけどね」

ペンギンはキャプテンに向けて言ってみるもののキャプテンは素知らぬ顔で珈琲を飲んでいる。


かちゃん、と珈琲のカップが置かれてふと隣のセラを見たキャプテン。オレの隣に座るシャチは気にせずご飯を食べ続けて、さらに隣のペンギンは食べながら新聞を読んでる。

目の前に座るセラは少し考え、プスッとプチトマトをフォークで刺すと、左手をトマトの刺さったフォークの下に添えるようにして、そのままキャプテンの方へと差し出した。


−−−−−−−−


差し出された赤く丸いモノ。

差し出した本人はいたって真剣で、俺をじっと見つめてくる。この手でかき分けて耳にかけさせた前髪から現れた目がそらされることはない。

「……はぁ」


ひとつ、ため息をこぼす。いらねェと言ってもこいつはきっと譲らねェ。そう感じてならない感覚がひしひしと伝わり再び深いため息をこぼした。

細い右手首を掴み、此方へ寄せる。プチトマトをそのまま口に含みフォークから外す。


弾けた果肉が珈琲の余韻をかき消し、流れ込んでくる。


「満足か?」

そう言って呆れながら聞けば、セラは目元を緩ませ一つ頷き、前を向くと両手を合わせて何かを呟く。

口元が"いただきます"と形作ると、そのまま船員達とは比べ物にならないくらいの少量の朝食を食べ始めた。



(おい、見たかペンギン)

(あぁ…信じられないがな…凄いな、セラ)

(オレ、キャプテンのあんな姿初めて見た!)


(ばっ、ベポ静かにしろ!)


ロ「てめェら、ばらされてェか?」

船員達が小声で話しているのが丸聞こえだったが、隣のこいつには聞こえておらず俺の言葉に気がつき首を傾げ此方を見上げている。


ロ「お前は気にせず食え」

は い


(覚悟しとけよ)

((ひぇっ!?))

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