心を奪うその瞳 | ナノ
宴に小さな花が咲く



夜になり、甲板では宴が始まっている。ベポは一通りの準備を済ませると俺に大きく胸を張り敬礼をし得意げに"行ってくるね!"と告げて目的の場所へと入って行った。

あいつ…セラが宴に参加するから迎えに行けといえばベポはこの上ないくらい嬉しそうに笑い、いつの間にか打ち解けていたシャチはガッツポーズをし、ペンギンに至っては不安にならないようにと配慮された席をあいつのために用意していた。

特にこの二人と一匹はあいつの面倒をよく見るようになっていた。


それはきっと、あいつも少なからず心を開いて来ている証拠だろう。

あんなにも取り乱し、戻って来た俺に縋り、皆の安否を案じる姿、初めの頃のあいつじゃ到底ありえない光景だろう。


オォ!と一際騒がしくなり、皆の視線の先に目をやると、そこには不安げにベポの腕に抱きつきながらもこちらへと向かってくる小さな人影。

部屋にいた時の簡素な服ではなく、適当だがあいつに見繕ったシンプルな水色のワンピースを身につけて来たあたり、女としての意識はきちんとあるらしい。

…そういえば、あいつは幾つになるんだ。生い立ちを直接聞くには尚早だと考え、それに伴う年齢も聞かずじまいだ。

まぁ、10、11歳位だろうと何となくの目測で服を適当に見繕った結果だった。


シ「セラー!!それいいな、似合ってんぜ!」

大袈裟に手を振るシャチ、それに応えるべくベポの影から控えめに手を振るセラ。シャチはまるで小動物が少し心を開いてくれたような感動を覚え、二割り増しの元気さで近くにいるローやペンギンに御構い無しにブンブンとさらに手を振った。

ロー達のいる席に来る過程で様々な船員に声をかけられ、頷いたりして何とかコミュニケーションをとるセラ。そのスケッチブックには丁寧に"お疲れ様でした。お怪我はありませんか?ご無事で何よりです"と書かれ、一人一人に見せるように片手で持っていた。

シ「アイツ、健気だなァ」

ペ「まだ緊張でガチガチだが、馴染もうと努力してるのがわかるな」


べ「任務完了であります!」

やっとロー達の席に着いたベポの腕に引かれセラも到着する。改めてぺこりと頭を下げ、彼女が書いた言葉にローはかすかに笑う。


−宴会のご招待、ありがとうございます。みなさんお疲れ様です−

シ「おぅ!いいって事よ。相変わらず硬いなァ!もっとフランクにさ、ほら!」

ペ「お前が偉そうに言うな。セラ、ここに座りな」

べ「僕、セラのとーなり!」


やはり、この二人と一匹に対して特段構えが薄くなるようで、まだ表情の乏しいが、かすかに目元が笑っているのがわかった。

−ありがとうございます−

考え事をしていた俺に対し、再度提示して来た言葉にはきっと他のことも含まれているんだろう。"気にすんな"と短いながらに答え、ベポとシャチの間に座ったセラは頷いて見せた。


−−−−−−−−


シ「今回の一番功労者の俺が音頭取りマァース!」

既に出来上がっているのではないかと思うくらいのテンションの高さを見せるシャチが、ジョッキ片手に高らかに声を張り上げた。

ペ「いや、どう考えても船長だろ」

俺のツッコミに周りの船員が大きく笑う。もちろん船長が誰よりも数を片付けていたが、早々に終えると船内へと焦り混じりに戻って行った。

何かあったかと自分も駆けつけようとして、廊下の先で船長のお腹に縋るように飛び込んだセラを見て、目を疑ったのは記憶は真新しい。

意外だった。船長があんなにも焦り向かった先も、表情の変化がまだ少ないセラがあんなに音の出ない嗚咽をしながら大泣きしていたことも。


バレないように早々に甲板に戻り、宝部屋を見つけたシャチが意気揚々と運んでいるのを手伝っていると、船長があらかた片付け終わった甲板に戻って来た。

状況を船長へ報告し終えると、おもむろに聞かされた事実に思わず、今向かいに座るセラの頭を撫でたくなる気持ちになったのは秘密だ。



−−あいつ、俺達が怪我しないか気が気じゃなかったらしいぞ−−



−−−−−−−−


シ「えー、今回の勝利とセラの快気を祝ってカンパーイ!!」

「「「乾杯!!」」」


気の利くことを言ったシャチに、ニヤリと笑えば目が合ったセラはオロオロとシャチと俺を交互に見た。

ベポからオレンジジュースを渡されたセラは次々とグラスを当てにくる船員達に戸惑いつつ、一人一人に頭を下げてグラスをぶつける。

一通り終わると思いも思い飲み食いし、笑い声が響く。


シ「そういや、セラ、頬どーした?ガーゼ貼ってあるけど」


ビクッと肩を震わせ、シャチの問いかけにあいつは俯いた。


シ「え!?セラどうした!?」

べ「シャチがセラ虐めた!!」

ペ「おいシャチ何してんだ、とりあえず席離れろ」

はたから見ればシャチがあいつを怖がらせたようにしか見えない。非難するベポとペンギンの声にさらに周りの船員達も便乗して大騒ぎ。

大ごとになり、更に俯くあいつの顔が次第に赤くなっていることに気がついた俺だけが思わず喉を鳴らした。

俺が笑ったことに対し、船員達が俺に視線を向ける。視線に耐えきれなくなったあいつは、震えながらスケッチブックに書き、顔を隠すように見せた。


−部屋で転びました−

…………………


「「「ぶぅあはははは!!!」」」

大きく木霊する船員達の笑い声に耐えきれず真っ赤な耳を隠すように塞ぐセラ。

ローはニヤリと笑い、ペンギンのは口元を押さえ静かに笑い、シャチを含めた船員達は大笑い。唯一ベポだけが心配そうに"痛くない?"と聞いてきたことが引き金となり、ベポの腕に顔を埋め避難した様子が更に船員達には愛らしく思えた。

「そりゃ仕方ねェ!あんな野郎どもの怒号やらなんやらの中じゃ怖ェよな!」

ア「俺ァてっきり敵に付けられたかと思ったぜ、何もなくてよかったな!」


シ「おま、鈍臭すぎるだろ!逆に心配だわ!」

ベ「シャチ、セラを虐めない!」


ペ「まァ、敵にやられたわけじゃないだけマシだな。傷、残らないといいな」

ロ「残るような手当なんかするかよ」


「「「さっすが船長!」」」


息の合った船員達の言葉にベポの腕に顔を埋めていたセラは羞恥と戦いながらも、ローがとても船員達に信頼されているのがよくわかった。

だからこそ、自身の心の硬くなった部分が柔らかくなるのを着実に実感していた。

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