さあ、うたおう
ユキとキラその後
Merry mellow Christmas 07

とても、素晴らしい時間だった。


アキラさんの故郷。
「墓参り、しに行くけど……おまえ、…行く?」なんて上目遣いで誘われて、頷く以外に選択肢があるだろうか。


冷たいミネラルウォーターを一口喉に送りこんで、ベッドを見下ろす。
すーすーと幸せそうに寝息をたてる髪の毛が乱れままの天使が布団に埋もれている図に思わず目を細めた。
あなたが安らかだと、ぼくも幸せだ。


でも。

少し気に入らない。


ぼく以外の人間があなたに安寧をもたらしたのだということが。
心をざわつかせる。


あの時──。
涙を滲ませながら「何に」対する謝罪なのか明らかではない言葉を口にしたアキラさんを、彼らは受け入れた。
彼ら。
教会の敷地内にあるその施設のスタッフ。
母親を亡くした16歳のアキラさんが保護された施設の。


小柄で柔和な老婦人。
厳めしい顔の無口な老人。
それから。

「あきくん!」

「ミナト! うわ、おまえ……こんなでかくなったのかよ!」

「へっへ。あきくんは……変わんねー、ね?」

「あ、なんか今の間ムカつく」

その“ミナト”という施設出身のスタッフが、アキラさんに向ける眼差し。
それからぼくへの牽制。
なんて忌々しい──。


ペコと手の中のペットボトルが音を立てて我に返った。

ああいけない。

冷静にならなくては。

教会で無理矢理愛を誓った時のように悲しませてしまう。
あの気持ちはぼくの真実だけど。
ぼくが
あなたを。
幸福で包みたいのだから。
やり方を間違えては駄目だ。


綺麗にメイクされたままのもう一つのベッドをちらりと見て、でも体は魅力的な引力に逆らえない。

暖かい布団に潜り込む。
露わになっていたこめかみに鼻を寄せて、体温と一緒にふわりと立ち上るアキラさん香りを楽しむ。

「愛してます、ずっと」

幸せにしたいと思っているのに、いつだって幸せをもらってばかりだ。
歳を重ねているはずなのに、少しも大人になれていない。

「み……き……?」

「はい」

その口から僕の名前が囁かれるたび。

「ふへ……」

その口の端が持ち上がるたび。

「幸せです」

「……ん」

満ち足りた空間。
ずっとこの状態のままはいられないけれど、今だけは。


神も、他人もいらない。




―Merry mellow Christmas 終―


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