さあ、うたおう
ユキとキラその後
Merry mellow Christmas 03

人のいない職員室の壁際。

薪ストーブが燃える音。
それから壁を通して聞こえる食堂のざわめき。
懐かしいような、そわそわと尻の据わりが悪いような。
不思議な気分に混乱する。

暖かい室温と、手の中のコーヒーの湯気で垂れて来た鼻をズズっと啜った。

「ここで、暮らしてたんですね」

「ア? まあ、二年とちょっとな。……悪ぃな」

「え?」

「なんか、予定、狂って」

ぎこちなく笑いながら目線より少し上にある隣の深雪の顔を見上げれば、ふわりと微笑んで首を横に振った。
オレよりよっぽど落ち着いていて、その事に助けられているような気がする。

「センセー、割と強引だから」

強制的に施設内に連れて来られて、そのまま放置。
相変わらずマイペースな人だ。

「お世話になった方なんですか?」

「んー? マア? 母さんの昔からの知り合い? だし?」

暮らすようになったのは高校に入ってからでも、小さいころからよく遊びに来ていた。
昔センセーに、オレも覚えてないくらいチビの頃から知ってる、と言われた事がある。

でもここにはそんな子供、沢山いるし。

毎年新しい子供が身を寄せて、ここで育ち、そして巣立っていく。
だから覚えてないだろうなんて、思ったんだけど。

「ごめんね、バタバタしてるの」

食堂から戻ってきたセンセーに頷く。

「直ぐに帰るから」

「あら、そんなつもりじゃないのよ。ゆっくりして行って」

ミナト君や伊林先生なんかも話したがってるわ、と知った名前を出されてしまうと、浮かせた腰を元に戻すしかない。
ミナトと、イバヤシ……10年前の面影がふわりと浮かぶ。
ちょっと、うん、会いたい、気はする。
会って、いいのなら。
許されるのなら。

ああ、怖ぇ。
怖ぇけど、センセーの言葉に期待して、ドキドキする。

「引き止めてごめんなさいね? 何せ、久しぶりだから。ちっとも顔出さないんだもの……遠いから仕方ないんでしょうけど」

「いえ、大丈夫です。こちらに寄らせてもらう為に来ましたから」

オレなんてそっちのけでふふふと微笑みあう二人の間でコーヒーに口をつける。
だって、顔が。
どんな顔していいんだかわかんねえもんよ。


高校一年の冬。
母さんが死んで、それから卒業するまでこの施設の世話になった。
東京に出て、で、やっとこ胸を張れる仕事に就けて、これでいくらか恩返しができるなんて思ってたら、あんな事になって。
迷惑をかけた。
テレビや雑誌の記者がここにも来たのを知っている。

迷惑だったろう。

ここは教会だ。
静謐な場所だ。

迷惑だった筈だ。





……違う。


違うな。


オレがゲイだとバレた。
隠し通した性癖が、ここの人たちにバレた。

どんなツラして、帰ってこられる?


自分が可愛くて。
だから、オレは謝る事さえできずに、いた。


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