さあ、うたおう
ユキとキラその後
Merry mellow Christmas 02

角を曲がると、石造りの高い門とその向こうに大きなモミの木が見える。

近付いていけば、雪の隙間に電飾がのぞいていて、へえ、と思った。
オレのいた頃にはこんなモンなかった。
誰かの寄付か、それとも資金繰りが上手くいっているのか。
ゲスの勘ぐり。
最近のガキは贅沢だな、と口を歪めながらも、どこかほっとする。
豊かさは悪いことじゃない。

門の前で足を止めれば、後ろの足音も止まる。

見上げた建物の尖がり屋根には、十字の影。
古い教会。
ボロいのに何処か荘厳さを感じさせる佇まいは……今のオレには敷居が高けえ。

「人が多い」

「そうなんですか」

「平日だろ」

重たく感じる空気に耐えかねて分かってた事を改めて呟けば、深雪が応えてくれた。
ああ、畜生。
息苦しいのは空気が冷えているから、だ。
深雪がいる方向が暖かい気がするとか、そんなのは気の所為。
あり得ねえ。

「クリスマスですもんね」

「ン」

降誕祭と復活祭。
その日だけは教会中が大きく賑わう。
普段は慎ましくいじましく暮らしている施設の子供達も、その時ばかりは浮かれた気分を味わえる。
辛さも寂しさも、ほんの一瞬忘れられる日。

今は昼食会の最中だろうか。
見上げても雲に厚く覆われた空に太陽は見当たらず、時間を知る術はない。
相変わらずシケた空だ。
何も変わらねえ。

「ウラまわるか」

「はい」

楽しい日に水を差すようで、居心地が悪ィ。
何もこんなに日、と自分でも思わねえでもないけど、どうせ来るならこの日以外にはねえだろうし。


「コケんなよ」

門から続く塀に沿って小道がある。
除雪車が入れない狭い道は、雪掻きしてあるとはいえ足元が悪い。
ちらりと深雪を振り返れば、手が差し出された。
霜で重くなった睫毛を瞬かせると、少しだけ鼻を赤くしたイケメンが二コリと笑う。

「危ないから繋いで下さい」

「巻き込まれるからヤだ」

「転ばないから大丈夫ですよ」

「じゃ必要ねえよな」

「あ、やっぱり転びます。ちゃんと下になりますよ」

「巻き込むなっての」

ばかなヤツ。
踏み出せば雪に埋まって濡れるつま先を見ながら、マフラーの中でこっそり笑った。
ぴっと足を振って、ブーツに乗っかった雪を振り落とす。

あーあ。
ガキどもは浮かれてたんだろうか。
忙しいだろうけどちゃんと掻けよ、後で怒られっぞ。
センセーは怒らすとコエェだろう?

昔を懐かしみながら通用門の横を通り過ぎようとすると、飛び出してきた小さな影とぶつかった。
勝手口から繋がるここを通るのは教会の関係者くらいだ。
と言うこは。

「ごめんなさい! ……あら?」

「!」

見知った顔に体が固まる。
イヤ、でも。
オレの事なんて覚えてないかもしれないし。

皺に囲まれた深い色の目が微かに見開かれて、その後くしゃりと微笑んだ。

「おかえり、章君」

ああ、畜生。
鼻の奥が熱い。


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