「変兆」-6P
「何かをなくした気がするんだ」
「何をなくしたって?」
ウェブスターは怪訝な顔で返した
ビブセントはぴたりと動作をやめ、背後のウェブスターを振り返った
「………わからない。何かをなくしたんだ。俺は何を探している…?」
兄が正気に戻り不安げにしたので、ウェブスターは虚ろな彼を引っ張って立たせた
「……大丈夫だ。お前は何もなくしちゃいないよ」
ウェブスターは言いながら氷のように冷たい彼の手を両手に握って温めてやった
そう言われても納得しない兄は、しかし自分でも無意識に行う不可解な言動の答えを導き出せなかったので、その不満をぶつけるようにウェブスターの顔をじっと見つめた
ウェブスターの顔もビブセントの不満に比例して浮かなかった
ウェブスターには兄と違い、心の中で密かに辿り着いたひとつの可能性があった
彼はビブセントの変異の真因に思い当たる節(フシ)があったが、それを認めたくなかった
そして一連する事柄は心の中にひっそりと隠忍すると誓い、そうした
だから真実は語られることなくビブセントの自己不信と苛立ちは蓄積して今日(コンニチ)に至ったのである
詩人ノーティンラートの語らい
第一・五の章「変兆」
−終幕−
2011.05.16
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