「決断」-1P

ぼんやりと煙草をふかすウェブスターの元を部隊長のヌエスが訪れたのは夜明けも近い午前4時だった

「疲れているところをすまないがね」

「…何があったんです?」

指揮官が直々に隊員の部屋を訪問することは稀(マレ)だったので、ウェブスターは気乗りのしない無愛想な声で尋ねた

「君が指揮をとった前回のルンジット作戦が功を奏したよ、ウェブスター」

ヌエスは誇らしげに彼を見た

「彼の娘を助けたことで、あの気難しいムン大佐が我々との同盟締結を承諾した。彼は将来カスクートの………」

熱心に話すヌエスの口元に視線を貼付けてはいるものの目は虚ろで、ウェブスターの疲労は相当らしかった

どうやら先日まで任されていた任務でうまくやり、組織の栄光に大きく貢献したようだが、本来はこの上ない褒美である上官の称賛にも彼は単調に相槌(アイヅチ)を打つだけでさほど興味がないようだった

今の彼にとってありつきたい最高の褒美は十分な睡眠であったから、無礼にもあからさまな迷惑顔を作って上官を追い返そうとした

無論、隊長であるヌエスの方に強い権限があったが、実質、組織で最も卓越したマーダラ乗りであるビブセントとウェブスターはしばしば、位の高い将校たちよりも価値があるとして丁重に扱われた

参謀を務める頭のいい老若の将校たちのほとんどにはしかし、マーダラを使った実戦経験がなかったのだ

ゆえにビブセントやウェブスターのような希少価値の高い特級兵士は、発言にしても上層部への効力が生じたし、彼らの機嫌を損ねないように上層部も神経を尖(トガ)らせる節があった

組織は、熟練された戦力の損失を何より恐れた

だからエリートたちの少々の態度の悪さにもほとんどの将校は目をつむるのが現状だった

というわけでヌエスもそういう将校の一人だった

「…話はそれだけですか。一眠りしたいんだが…」

「ああ、それでだ。肝心なのは次だよ」

そういってヌエスは手に持っていた光沢のある封筒を彼の前にかざした

「褒美にリョンナンでのニ週間の休暇が出た」

ウェブスターは意外そうに瞬きをした

リョンナンは南方に開拓された高級リゾートエリアで、方々の権力や金力のある人間が憩いに訪れる遊園である

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