「エドという男」-5P
「トーマスはね、キャシーと同じくらいにバックスのことが大好きだったよ」
「! 何故キャシーのことを?」
トーマスがベトナムに来てキャシーのことを話したのは、ビブセントただ一人だけの筈だった
「オレに質問はしないで
彼がそう望むから、バックスの苦しい気持ち、全部オレにちょうだい」
そう言ってエドは心の中を覗きでもするかのようにじっとビブセントを見つめ、微動だにしなくなった
「…」
ぎらぎらとしたガラス球のような彼の目を見返していると、ビブセントは何か、言い様のない不思議な感覚を覚えて、はっとして二度ほど瞬き、何処かへ手放しそうになった意識を繋ぎとめた
「ところでバックス、約束は覚えているよね?」
「え?」
「トーマスが生きて故郷に帰ることは叶わなかったけど、次のDEROSでアメリカに帰ったら、キャシーに会いに行って」
エドは背を向け、そして付け加えた
「彼はニ日前に彼女宛てに手紙を出している
その手紙でバックスのことを書いているよ…だから、彼との約束を果たして、いいね」
有無を言わさず不可解な言葉を残して、エドは騒がしいバーを後にし、夜の暗がりの中に消えていった
「…何者なんだ、あいつ…」
エドという男に対して新たに多くの謎が生まれたものの、しかしビブセントには、彼の残した言葉の意味がしっかりと理解できていたのである
「エドという男」
-終幕-
20100318
(加筆修正:20130430)
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