「エドという男」-4P

「…お前が何故俺に?」

「呼ばれたの」

エドの返事を噛み砕けず、ビブセントは怪訝な表情で返した

「何の話だ?俺は呼んでいない」

「そう、呼んだのはバックスじゃない だってバックスはオレのコト嫌いだもの」

「…」

奇妙な薄笑いを浮かべて明言したエドに、ビブセントは黙った

エドとの会話には、理解しかねることや話が噛み合わないことが多々あった

エドは普段とても無口で、こちらから話を持ちかけたとしても口を開かせるのは至難の業だった

戦闘機を降りて地上で過ごす間、彼はいつも独りで空を仰(アオ)いでいた

いつだったか、仲間の一人が偶然通りがかった彼を見つけてビブセントに言った

「何でもあのエド・ハービスって奴は、他人の心を読むらしいぜ」

馬鹿馬鹿しい、と、ビブセントは鼻で笑った

そして後に臨時特殊部隊として設立されるSASのメンバーとして選抜された者たちが顔合わせをするその中に、ビブセントはこの一癖ある男、エド・ハービスの姿を見るのことになるのである
今や仲間となった二人だったが、ビブセントは心の中では、仕事以外の時間にエドとは極力関わりたくないと思っていた

「意味がわからねーよ」

「うん、だろうね」

ビブセントの呟きをさらりと受け流して、エドは彼と二人きりにしてくれるようウェブスターに頼んだ

「おい少佐、何なんだい、そいつ!」

「ダチだって?態度がでかいじゃないか、気に食わねぇよ」

「お前ら、うるさいな エドに手を出すっていうんなら、俺をやってからにしろ
さぁ、散った散った」

ウェブスターはエドとビブセントの二人を残し、招かれざる客にしぶとく注目する海兵たちを静めた

「…それで?二人で何を話す」

酒場の隅に陣取って早々、ビブセントが切り出した

「苦しいんだね」

「…何がだ?」

「彼も同じことだよ」

対面するように壁にもたれかかり、エドは相手の返答などお構いなしに一方的に話しているように思えた

「今日、トーマスが死んだね」

「!」

いきなり核心を突いたエドに、ビブセントは僅かに目を見開いた

「…トーマスを知っているのか?」

「オレは面識ないけど、知ってるよ」

「何故?」

「バックスが知ってるから」

「?…」

解釈につまりビブセントは眉目を険しくした

「どういう意味だ?」

訊くとフフと洩らし、それからエドは天井を見上げて黙り、何かを追考した

「バックス、トーマスが死んで悲しい?」

笑みを急速に絶やした、百面相のように様相を変えるその口から唐突な質問が飛び出し、ビブセントは一瞬応答を迷ったが、やがて語り始めた

「ああ…悲しい 馬鹿なところもあるが、いい奴だった
俺は、トーマスがかけがえのないダチのような気がしたんだ」

ビブセントの青い目は深い悲壮感に包まれた

「ナムにはひっきりなしに新米が来るけど、トーマスは他の奴らとは何かが違っていたんだ」

エドは汚れた床に視線を落とし彼の本音を静聴した

「…バックス、悲しまないで」

空気に溶け込むほどの穏やかな声でエドは言った

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