「初会」-1P

「明日、サングの誕生日だけどさ」

床がうるさく軋む、古びた部屋の一角

訪れていたヂャーマスが切り出すと、丸い木製のコーヒーテーブルをはさんで向かいに腰かけていたロパの丸い目が彼を捕らえた

「何か贈るのか?」

付け足した一言に、丸パンを含んだ口元を忙しく歪める

「お前がもっと早く教えてくれればねぇ、ヂャーマス」

長いブロンドの前髪を無造作にかきあげて不平を漏らし、ロパは唸り考えた

「故意に言わなかった訳じゃない。俺はてっきり、お前がとっくに知っているものだと思っていたんだ」

ヂャーマスは甘いコーヒーの入ったカップを手に、不格好に歪んだ白い窓枠の外に広がる世界を眺めた

彼はとんでもなく甘いもの好きで、コーヒーにはいつも決まって砂糖をスプーン山盛り3杯半、それにミルクをたっぷり入れて飲むのだ

「出会った頃からすれば大分変わったな、サング」

「まぁねぇ、…… 俺の愛の力でしょ〜?」

「ハハ、否定はしないけど」

冗談か本気か、判別のつかないロパの言葉にヂャーマスは軽く笑った

とはいうものの、それは他の仲間も認める事実だった

4年前、天災後に出会ったサングといえば、今とは比較にならないほど閉鎖的で、感情を削いだ表情に、死に絶えた骸(ムクロ)以上の冷たさを宿した少年だった

失ったものは大きく、絶命を望んでは死に場を求めて夜な夜な外を徘徊し、夜通しの捜索の挙句に仲間に連れられて帰ったことも一度や二度ではなかった

生きながらえた意味を理解できずに、心は目の前に広がった現実にことごとく引き裂かれた

今とはおよそかけ離れた彼の心身を粘り強く介抱したのはロパだった

サング・F・ピリアードはフランスに生まれた育ちのよい上流階級出身者で、あらゆる品格を兼揃えていたが、とりわけ容姿と声に恵まれた少年で、ロパが彼を見た時は、性別の区切りのつかない外見に少女だと思い、早々に口説き文句を浴びせたほどだった

もちろん、不躾(ブシツケ)な行いは冷たく一蹴されたが、それ以来、のちにサングの性別を知った後も、ロパは彼にぞっこんらしかった

元来女好きな彼であったが、サングに関しては自己の恋愛の定義を超えた特別な存在のようだった

彼はサングが、心優しい博愛主義者という自我を取り戻すまで寄り添い、どんなひどいあしらいにも決して屈さなかった

しかしそれが真の愛情から来るものなのかどうかは、傍で見ているヂャーマスたちも今だに判断しかねている

天性の楽天家で、奔放にふざけてはサングを相手に、頼りない声で縋(スガ)って甘えてみせたり、かと思えば無意識に造る、心を根底まで射抜く稲妻を宿したような眼光鋭い目つきで、度々親しい相手をはっとさせるのだ

正義感に溢(アフ)れたリーダー格であるこのロパという男は、実に変化に富んだつかみ所のない存在だった

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