「永遠の紳士」-1P

これは彼が親友に語った話である

ある時、親友が彼に訳を尋ねたことがあって、これから綴るのはその為に明るみに出ることとなった、彼の人生の核を形成する重要な出来事のひとつである

天災以来、自らのことを話したがらなかった彼は、暖炉をはさんで親友と向かい合わせになり深々とソファに腰かけて両足を放り出すようにし、酒の入ったグラスを傾けながらその中に映り込む火をぼんやりと眺めていたが、やがて静かに語り始めた

あれは…もう20年近く前のことだ

俺がちょうど10才の−、クリスマスを一ヶ月後に控えた頃だった

うちは片親で、家はひどく貧しかった

母さんは身を粉にして働いていたが、仕事の少ない田舎町じゃあ、収入は知れていたんだ

だから俺はよく学校を放り出して、町から少し離れた道路の辺りを朝からうろついた

町に出入りする、よさそうな車を片っ端から引き留めて、窓拭きや靴磨きなんかをやるんだ

それでいくらか小遣いがもらえた

クリスマスが嫌いだったよ

でもあの時は、まだ小さい弟たちに何かしてやりたくて、それで俺は学校に行くふりをして、毎日のように道端で行き交う車に声をかけていた

稼ぐことに必死だったんだ

クリスマスまであと二週間ほどに迫った頃、…あれはひどく寒い朝だった

その日も学校をすっぽかしていつもの場所に早めに着いた俺は、道の脇に座って車通りが増える時間を待ちぼうけていた

すると一台の車が町の外からこっちに向かって走って来るのが見えたんだ

見たこともない黒い高級車だ

当然、窓ふきなんて必要もなくて車体だってピカピカだったけど、こんな車に乗る人間だ、うまくやればきっといい小遣いがもらえるに違いないと俺はとっさに思った

年に一度だって、あんな町に出入りするような車では到底なかったんだ

俺は素早く立ち上がり、向かってくるその車に際まで駆け寄りぴたりと足を止めた

度胸はある方だったが、いざ大物を目前にすると子供心が怯(ヒル)んじまったんだ

あの中にはどんなに立派な大金持ちがいるんだろう?

俺を見て何と言うだろうか?

もしかすると学業を放り出してここにいることに憤慨して、親や学校に通報されるかも知れない、とな

すると立ちすくむ俺と真横に並ぶところで車が止まり、後部座席の黒がかった窓が開いたんだ

中には青いダブル・カフのクレリックシャツにグレイ・フランネルのスーツを着込んだ男がいて、思慮深い目でじっと俺を見てから教養を感じさせる調子でこう言った

『ここで何をしているんだ?』

落ち着き払っていて寡黙な感じだが、その声にはどこか優しさがあった

だから俺は答えた

『ここを通る車や、運転手の靴を磨いて小遣いをもらうんだ』

男は複雑な顔をした

『お母さんは知っているのかね?』

俺は一瞬ためらったが、正直に首を横に振った

この男には嘘をついてもすぐにばれると、直感的にそう思ったんだ

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