「理由」-4P

ところでビブセントを助ける方法というのは健康な新しい心臓を調達する以外になかったから、ウェブスターは兄の目の届かない所でどんなことをしてでも手に入れるつもりだった

人が生き残る世界のあらゆる場所は非常に混乱しており、誰もが消えた連れ添いを探して放浪人のように国境の消えた地を彷徨(サマヨ)い、疫病が蔓延する地では老いも若きもがバタバタと倒れ死んでいった

年頃のいい体の丈夫そうな人を見つけて攫(サラ)うことも、連れ去って綿密な検査の果てにその体を刻んで隠蔽することも信じられないほど容易だと彼は平静とした表情で考えていた

ウェブスターには情愛やたくましい正義感が備わっていると同様にこのような悲愛な残虐性があった

その思考の根源はビブセントへの深い愛であったが、彼の性格は浸(ツ)かる環境を誤まると取り返しのつかない獣(ケダモノ)に成り変わる危険な可能性を秘めていた訳である

しかし幸運にも、彼が誰かをさらって惨殺せしめる状況はやって来なかった

心臓を患ってから、ビブセントを助けようとウェブスターは様々な場所で医者を見つけては彼の元に連れ帰った

ひとたび医者が同伴を拒むと、ウェブスターはその残虐性をもって手荒に制裁を加えて従わせたから、白い髪の医者さらいの噂は一帯の医者たちの間で瞬く間に広まった

この時、二人はブルツェンスカというドイツ系の年老いた医者の元に身を寄せていた

ブルツェンスカはウェブスターの医者さらいに遭遇した一被害者であったが、目は衰え手先は麻痺が進んで役に立たなかった

しかし態度は堂々としており、殺気立つウェブスターを言葉巧に宥(ナダ)めすかして彼に差し迫った境遇をすっかり自白させた

「力にはなれないが、お前さんと病を持ったその友人をここに置いてやるくらいはできる」

更にブルツェンスカは言った

「それに腕は使えんでもわしは医者だ。他の地で医者をやっとる奴らともちょっとした伝達をやっているから、お前さんの友人の助けになる話が入ってくれば教えてやろう」

老いた医者は口は達者であったが、確かに孤独だった

話し相手が欲しかった

二人の若者との会話は楽しんでも生い立ちに関して余計な詮索をしない流儀を心得ていたから、ブルツェンスカは二人に受け入れられた

そしてある日、このブルツェンスカの住家に東の地の医者がやってきた

東の医者はブルツェンスカと部屋の隅で密談しながらウェブスターの方をチラチラと伺った

ウェブスターは床につくビブセントの傍らで胡散臭(ウサンクサ)そうな目をして、主人を守る猛犬のように東の医者を睨みつけていた

「心配はいらん、わしのよく知る同志だよ」

東の医者が歩み寄ろうとするとウェブスターは立ち上がってぞっとするような怒りをあらわにしたので、ブルツェンスカは間に立って彼を宥(ナダ)めた

「お前さんに見せたいものがあるそうだ」

東の医者はほつれたジャケットの上着のポケットから小さな丸い光り物を取り出してウェブスターに渡した

この一連のやり取りはビブセントが眠っている間に行われた

その後ウェブスターは東の医者に連れられていずこかへ赴(オモム)き、彼がブルツェンスカの住家に戻ったのは辺りがすっかり闇に包まれ冷え込みが厳しくなった夜中になってからだった

起きて帰りを待っていた兄を入口の暗がりの中に立って、ウェブスターはしばらくの間無言でじっと見つめていた

ビブセントは不安な顔をした

それは一見すると判別のつかない些細な変化だったが、ウェブスターが見極めるには十分であった

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