「決断」-8P
「…バックス」
ウェブスターは彼の前に膝をついた
「お前は決して言わない。自分が破滅しようと言わない。…だから俺が言うんだ」
向かい合い誠実な目で見つめてくる親友に、ビブセントはうろたえてしくしくと泣いた
「俺は構わない。お前がそれで幸せになるなら、二度と会わないことも、本気で愛し合うことも、俺はどっちだって…それがお前の本望なら構わない」
ウェブスターは長年親友として連れ添った彼に、最愛の人の死後ずっと曖昧(アイマイ)にしてきた胸中を打ち明けた
彼は以前からビブセントが自分に特別な愛情を抱いた可能性に気付いていたし、健気に最愛の人を愛し続けていることも知っていた
気丈に振る舞う裏で滞留と変化、二つの感情に揉まれ苦しんでいることを知っていた
「何故そんなことを」
兄は両手で頭を抱えて苦悩し、目の前のウェブスターと煮え切らない自分の心に腹を立てた
「俺にそれを選べと言うのか!俺にどうしてそんなことが選べる!一体どうしてそんなことが!」
ビブセントは叫び、ウェブスターの胸を拳で何度も殴りつけた
やがて罵声は嘆きに変わり、ビブセントは感情をぶつけることに疲れ、力尽きた
「…将軍のこともそうだが、お前は今の組織での環境にも参っているんだよバックス。俺とリョンナンに行くんだ」
妥協を赦さないウェブスターに兄は疲れてしまい、途方に暮れた
「レオ、愛してるぜ…嘘じゃない。確かに離れようとしたのは、クロスに誠実でありたかったというのもある…。だが何より、お前が大事だったからだ。頭がいかれて、お前を俺の面倒な人生の巻き添えにしたくなかった。ヤクを吸っていても戯言だと思うな。俺はお前のまともな未来を守る為なら、自分の人生を今すぐに棄(ス)てたって構わない。それでも俺を突き放して二度と関わらないとは言ってくれないのか」
「ああ、言わないな」
全てをさらけ出してもウェブスターの心が動いた痕跡が微塵(ミジン)もなかったから、ビブセントはこの世の末のような悲壮を浮かべて、もう言葉もなかった
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