「決断」-7P

兄の有様に幾らかの情けなさは感じても、こんな時にウェブスターの性格は真の慈愛を発揮した

最愛の人を亡くしたビブセントを守ってゆくと決めた時から、このような状況に行き着く覚悟はできていた

ウェブスターにしてみれば、ビブセントが隠し持つ本来の人格がどれほど繊細で脆(モロ)いものなのかは最愛の人の生前から薄々感じていたことで、だから目の前で現実となってもさほどのうろたえも感じずにいられた

「…聴け、バックス。死にたいなんて言うな。薬もやるんじゃない、二度とな。
俺はお前が昔みたいに笑うなら何だってする覚悟があるんだ。……お前を愛しているよ。俺はお前が彼を愛したように、お前を愛している」

提言され、ビブセントは殴られでもしたかのように目を丸くした

「俺がクロスを愛したようにだと…?………違う、よせ、そんな筈はない。お前は何も知らないんだ」

「何も? … いや…俺はお前がどんな目で将軍を見ていたか知っている」

「黙れ!知るものか、彼への侮辱だ!お前、俺に向かってよくもそんなことが!!」

兄は憤怒し、ウェブスターを罵った

「事実だから怒るんだな」

激高するビブセントとは違って、ウェブスターは淡々としていた

ビブセントは不可侵領域を踏み荒らされて怒り狂ったが、ウェブスターの顔があまりに冷めていたので、それ以上何も言えなかった

おかしなものでビブセントが荒ぶれば荒ぶるほど、ウェブスターの冷静沈着ぶりは増すばかりであった

ほかの者がこの剣幕に遭遇すれば、怯(オビ)え竦(スク)むか、しっぽを巻いて逃げるかしたが、ウェブスターに限っては決して兄の激情に呑まれることがなかった

「…頼むからやめてくれ、レオ。そんなことは嘘だろう?取り返しのつかないことになる」

「…そんなことって?」

威嚇が通用しないと知るや意気消沈し、尻込みして後ずさるビブセントの片腕をとってウェブスターは尋ね返した

「お前……俺がそんな中途半端な気持ちで将軍と誓いを交わしたと思っていたのか?
俺が、彼とお前の事情に無知でありながら彼の意思を引き受けたとでも?」

「そんな……」

続きは喉の奥につまって出てこなかった

ビブセントは壁に追いやられると絶望的な顔をしてその場にしゃがみ込み、上体を折り曲げて床と鼻先を突き合わせ、首を振り続けることで意思表示に努めた

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