「決断」-4P

「………何だ…?…お前か…………勘弁しろよ……休みだっていうのに………」

いつも美しく身なりを整えているビブセントとはまるで違う人間が、開けたドアの隙間からこちらを見た

髪は乱れて垂れ下がり、半分だけ覗いた顔は生気に欠け青白く目は虚ろで焦点が合っていない

羽織った白いシャツはだらしなく痩せた肩を露出して腕の先に絡み付いている

ひょろ長い二本の脚で支えられた胴体は波間を漂うようにゆらゆらと怪しく揺れていた

「…決まった時間にやってくる…お前は監獄の看守かよ…」

兄は心底面倒臭そうに吐き捨て、重たそうに揺れる頭をドアの縁(フチ)にがつんと打ちつけて固定した

金色の髪がべっとりと貼りついた額には、いやな汗が光っていた

「二週間の長期休暇が出た。ルンジット作戦の褒美だそうだ」

ウェブスターは鋭い洞察力を働かせながら言い、権利書を彼の目の前に掲げた

「へぇ…そう…かい、…ルンジットの一件には、俺は関わらなかったぜ、…」

兄が呂律(ロレツ)の回らない様子で突然ドアを閉めようとしたので、ウェブスターは腕をはさんで食い止めた

「リョンナンでの休暇だぜ、二人分の権利書があるんだ」

「…何だって?それで俺を誘っているのか?」

「俺が誘える相手はお前しか」

ウェブスターが言うと兄は口元を歪め、扱(コ)きおろすような溜息をついた

「一等リゾート地での休暇に男を誘うやつがあるかよ……相手が違うだろう…。あの娘を連れて行け…。あの酒場の、…シンシアとかいう娘だよ」

ビブセントはドアにもたれて目を閉じ、眠りながら話しているようだった

ウェブスターは彼の意外な言葉に表情を曇らせた

「…シンシア?」

「ああ、そうさ。……あの娘はお前に惚れている。若くしてあんな店で働いているが、お前に一途で純粋そのものだ、…あばずれじゃない」

囁きながら時折奇妙な笑みを浮かべ、ひどく疲れた顔はいよいよ死相のようになってきた

「電話をかけろ、そして楽しんで来い…じゃあな」

「おい、待て、待て」

一方的に話を切り上げビブセントが再びドアを閉めようとしたので、今度は片方の足をドアの間に差し込んでそれを阻止した

兄は天井に向かってぶつくさ言い、誰かからの返事を受け取ったように頷(ウナヅ)いたりした

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