「決断」-2P
「関門通行許可証が二枚とドレアムホテルのカードが二枚だ。部屋は最上階で、ホテルの全てのサービスが使えるようになっている。同伴が一名可能だから、町に恋人がいるのなら誘うもいいだろうし…」
語尾を濁して、ヌエスは彼の肩越しに部屋の奥に視線を投げやった
奥にあるベッドの上ではビブセントが倒れ込むようにして泥のように眠っていた
「ビブセントを連れいくのもいい。どうやら疲れが溜まっているようだしな。彼を同伴するなら私に一言くれたまえ。ビブセントの日頃の働きを訴えれば、何とか上層部も融通を効かせてくれるだろう」
説明を受けながら権利書を手渡されたウェブスターは振り返り、ヌエスと一緒に死人のようになっているビブセントを眺めた
「…明日話してみます」
「それがいい。話は以上だ、ご苦労だった。ゆっくり休みたまえ」
「…有難うございます」
上官はうなづき、くるりと体の向きを変えて去っていった
ヌエスはウェブスターを尋ねて当たり前のようにこの部屋を訪れたが、そもそもこの部屋は彼の部屋ではなかった
この部屋はビブセントの個室で、二人は少し前から別々の部屋に暮らしていた
ビブセントが望み、そうすると言ってきかない末のことだった
だが部屋を分別した以後もウェブスターは頻繁にビブセントの部屋を訪れたし、そのまま眠って一晩を過ごすこともあったから、部屋を別にしたことも現状としては曖昧な境界線を敷いただけのことであった
部屋が同じだった頃、眠るのはいつもビブセントが先で、ウェブスターは眠りについた彼の傍でしばらく起きて過ごすのが決まりになっていた
それは目を離した隙にビブセントが発作を起こすことを恐れたウェブスターが自ら作り上げた習慣であった
発作がひどかった日の晩は、手の爪で腕の内側の肉を深く抉(エグ)る自傷行為に及んだので、ビブセントが不安の兆候を見せた時は、彼の腕を背後から押さえつけるようにして一緒に眠ることもあった
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