ぼくはこのみにくい心できみたちをころしてしまうかもしれない。
赤い炎と、世界が壊れていく瞬間。
悪夢が頭の中を駆け抜け、全身ひどい汗と共に目が覚める。
だが、眠っていたのは小一時間ほどだった。窓の外はまだ暗く、月と星が瞬いている。
喉がカラカラになって、ベッドからのそりと起き上がり、よろよろと歩き出した。
冷蔵庫の中からお茶を取り出し、喉を潤す。
頭はぐらぐらと揺れ、気分が悪い。
次に、顔を洗いに洗面台へと向かった。
濡れた顔を上げ、鏡に映る自分を見る。
歪な笑顔を作ってみせた。
自分は笑っていなきゃいけない。
【彼女】は【おれ】に笑っていてほしいと言ったから。
それに、皆に心配は掛けられない。少しでも隙を見せれば、皆、自分の変化に気づいてしまう。
(‥‥笑っていなきゃ)
その夜は眠らないまま夜が明けた。
明朝、皆が起きる前に村の外へ散歩にいく。静かな道を歩けば、少しは気分が晴れるだろうか‥‥
一人になると、悪いことばかり考えてしまう。
(なんでおれには力がなかったんだろう。なんでおれには何も守れないんだろう。クリュミケールさん達みたいに、特別な力も何もない‥‥でも、特別な力があっても、クリュミケールさん達にも守れないものがあった。じゃあ、何をすれば守れた?何があれば‥‥おれには、何が‥‥)
朝日が昇り、一羽の鳥が空を駆ける。
(‥‥あいつを憎めば、この気持ちは晴れるのか?あいつが死ねば、いいのか?)
ぶんぶんと首を横に振り、らしくない思考を止めた。
(帰ろう‥‥考えたって、何も取り戻せないんだから)
帰って、皆の前で、また笑えばいい。
笑っていれば、一日が終わる。笑っていれば‥‥父も母も彼女も、安心してくれるはずだ。