持て余す矛盾だらけの恋情
「ずっと前にさ、リオさんに好きな人はいるかって聞いたの覚えてる?」
ラズからの問いに、リオは数秒考え、
「ああ。港町カネラでのことだな」
そう答えた彼女をラズは目を丸くして見つめ、それからくすっと笑い、
「いやー‥‥カシルから聞いてたけど、リオさんって本当に記憶力がいいんだね。八年ぐらい前のことなのにさー」
「はは、そんなに前だったかー」
「そうだよー」
「まだリオラの存在を知る前だったなー‥‥懐かしいな」
でも、それがどうしたんだとリオが聞けば、
「あの時はリオさん、カシルのこと好きじゃなかったのになーって」
「そりゃそうだろ。あの頃はシュイアさんやレイラのことがあったし、意味わかんない奴だったしさ」
「そうなんだけどねー‥‥うーん」
どこか不服そうにしているラズを見て首を捻っていると、
「はぁー‥‥僕がこんな子供じゃなかったらなぁ。昔の僕は背も高くて大人で、カッコ良かったんだよー」
「ザメシアの頃?へー、見てみたかったな」
「はぁー。シュイアさんもシェイアードって人もカシルもさぁ、リオさんを悲しませてばっかでさぁ‥‥僕だったら絶対悲しませなかったのに」
「はは。どうしたんだよ、ラズ」
嫉妬にも似た言葉を言ったつもりだが、リオはおかしそうに笑っているだけだ。
(本当に。昔、僕が君を好きだったことを未だ知らないんだからさ)
と、呆れるようにリオを見つめる。
「もしもの話だよ」
「そう言うけどさ、ラズだってフィレアさんを悲しませたじゃないか」
「うっ」
「ラズはフィレアさんが好きなんだろ?キャンドルとカシルが話してたよ?」
「は!?なんであの二人が!?」
「ラズは絶対フィレアさんが好きだよなって言ってた」
「それはあの馬鹿二人の妄想!」
「そうなの?じゃあ、ラズは好きな人はいないの?」
「こっ‥‥こう見えて、僕はもう年寄りだからね!君達みたいに恋をする歳でもないし」
ラズはリオから顔を逸らし、
「それに、今は充分、幸せだからね」
小さくそう言った。
リオのことは、今でも好きで大切だ。
それは、英雄の忘れ形見であり、過去の時代に最も近い存在だからなのかもしれない。懐かしさもあり、しかし、未来への希望でもある。
恐らく紅の魔術師もそうなのであろう。
ラズと違い、憎しみ半分、愛情半分と、何やらややこしいようだが。
「そっか。本当に、ラズがザメシアだって言ったあの時は色々ビックリしたけど‥‥幸せって聞けて良かったよ」
リオはそう言って笑う。
『紅の魔術師と、オレ達の友であったザメシア様をよろしくな‥‥』
父にそう言われたが、言われなくとも、ラズは仲間だ。大切な友だ。
恐らくもう、ラズがザメシアとしての過去に囚われることはないだろう。だが、もしそうなった時は、自分やフィレア、仲間達でラズを支えるだろう。
ザメシアとしてではなく、ラズを大好きだと言ったハトネもきっと見守ってくれている。
「あーーーーっ!でもやっぱりカシルのこと思い出すと無理だ!腹が立つ!無自覚に勝ち組すぎるだろ!!!!」
再びラズがそんなことを叫ぶので、リオは声を出して笑った。