【Legendary bees】
「ゆっ‥‥豊くん‥‥大変だ!!」
「あー?なんだよ朝からテンション高‥‥っておまっ!?なんで俺の部屋に居るんだ!?」
よく晴れた休日の朝。豊は友人である誠人の声でベッドから飛び起きた。ベッド横に誠人が立っていて、なぜか虫かごと虫取り網を持っている。
「ねえねぇ豊くん!この前バザーに行ったHEBISIRO☆カンパニー☆を覚えてるよね!今日そこの一階ホールで、伝説のミツバチが出現するんだって!」
「いやなんの話だよ!それよりなんでお前は休みの日に俺の部屋にというか家に不法侵入してんだよ!!?」
「そんなの鍵を開けっ放しの窓から入ったに決まってるだろー!全く!豊くんは無用心なんだから!そんなことより早く行くよ!」
「はぁ!?行かねーよ!俺が虫嫌いなの知ってんだろ!」
「綺麗なお姉さんがミツバチのコスプレをして頭からハチミツを被るショーがあるんだって!」
「‥‥行くか、なんたらカンパニー」
前回の悪夢なんてすっかり忘れている豊は妄想を膨らませ、二人は再びHEBISIRO☆カンパニー☆へ向かうこととなる。
一時間ほど電車に乗り、都内の中心に相変わらずバカでかい会社があった。
当たり前のように二人は中に入り、だだっ広いホールで豊はいきなり盛大に転けた。
「ぎゃー!?なっ、なんだ!?なんか滑ったぞ!ベタベタぬるぬるする!!」
そう言いながら床を確認すると、床一面にベッタリとハチミツが塗りたくられていたのだ!
「あっ、豊くんラッキースケベだね!」
「俺自身がラッキースケベしてどうすんだよ!」
怒鳴りながら豊は立ち上がり、ハチミツでベタベタになってしまった服をうんざりするように見る。
改めて周囲を見てみるとたくさん人がいて、皆、誠人と同じように虫かごと虫取り網を持っていた。
「ってかよぉ、伝説のミツバチ‥‥だったか?なんなんだよそれ」
「これ見てよ。昨日の帰りに商店街を歩いていたら、こんなチラシを配っていたんだ」
「んー?」
誠人が取り出したチラシを見ると、【明日、伝説のミツバチがHEBISIRO☆カンパニー☆に出現シマス!ハチミツ料理も盛り沢山!我が社のアイドルのミツバチ衣装&頭からハチミツを被るショーもアリマスヨ!】なんていう文字が書かれている。
「ふむ。内容はわかったが、結局この伝説のミツバチってなんなんだよ!」
「伝説って言うんだからきっと伝説だよ!」
「わかんねーよ!」
そうこう言っていると、急にホールの照明が消え、辺り一面が暗くなった。パッーー!と、一ヶ所に光が当てられ、うっすらと人影が見える。
いや、人影というか、丸い、何か。
季節外れの雪だるまがそこにはいた。
赤いバケツを被り、チェック柄のマフラー、赤い手袋、黒い長靴。
彼(?)は、何か話し出した。
しかし、異次元の存在なのだろうか。そもそも言語が違うようで、雪だるまの彼(?)は、ここに居る人達には伝わらない言葉を話続ける。
それは、約二十分程だった‥‥
話を終えたのか、雪だるまはニコッと笑い、その場に溶けて消えた。
人々は死んだ目をして黙っている。そして豊は一言、
「ナンダコレ‥‥」
そう発した。
「と言うことで、皆様、お待たせ致しました。本日のショーが始まります」
カラスみたいな声をした青年の声がスピーカー越しに聞こえて来て、死んだ目をしていた人々は目に光を取り戻す。
(綺麗なお姉さんのショーだ!!伝説のミツバチとか意味不明だけど、綺麗なお姉さんを見る為に俺はっ!ここに来た!)
心の中で叫び、双眼鏡を取り出して綺麗なお姉さんを待った。
すると、黄色と黒のシマシマ模様の服に身を包み、お尻をフリフリと振り、衣装のミツバチの針がかわいらしく揺れている。
人々がそれに見入っていると、消えていた照明がパッとつけられ、ホール内は明るさを取り戻した。
これで綺麗なお姉さんの顔がハッキリと‥‥
‥‥‥‥?
デジャヴ、デジャブ、デジャビュ、デジャビュー、デジャヴー、デジャヴュー‥‥既視感。
ミツバチ衣装に身を包んでいたのは、いかついグラサンがギラリと光り、ツルツルの頭がキラリと光る、おっさんだった。
天井から穴が開き、ドバッとハチミツが流れてくる。ムキムキのおっさんはハチミツまみれになり、テカテカになった。最早、ただのボディビルダーだ。
豊&夢に期待を膨らませた男達は、一斉にハチミツまみれの床にぶっ倒れる。
「豊くーん!」
唯一ショーに興味のなかった誠人は一人、伝説のミツバチをゲットしていた。
ーーそんな様子を最上階のモニターから見ていた会社の御曹司は、今回の名物【生ハチミツジュース】を口から吹き出してこう叫んだ。
「鴉!!一義!!またお前らか!?壇上にミツバチ衣装着せてハチミツぶっかけて『綺麗なお姉さんのショー』とか広告に嘘くそ書いたのは!!!!?お前らにとって壇上はなんなんだ!?我が社のアイドルってなんだ!?我が社のアイドルは俺だろうが!ってかあの雪だるまなんだよ!伝説のミツバチってなんなんだよ!?俺の知らない間になんでこんな企画ばっか開催してんだぁぁぁぁぁぁぁ!?」
一日限りの【伝説のミツバチ捕獲体験】は色々おかしいところがあったが、なんとか無事に終わったらしい。
ぶっ倒れた豊はその終わりを見届けることはなかったが、誠人は伝説のミツバチをゲットしたらしい。
目覚めた豊は自室のベッドの中にいて、この体験が夢だったのか現実だったのか最早わからない。
(しばらくハチミツはいらねーな!!!)
そう思い、二度寝した。
end
3/8=ミツバチの日
Legendary bees=伝説のミツバチ