【ごった煮バザー】

「豊くん豊くん!今日はHEBISIRO☆カンパニー☆一階ホールでバザーがあるんだって!」
「あ‥‥?何カンパニー?どこだよそれ」

友人、誠人の口から聞いたことのない謎の会社名を出され、豊は目を細めた。

「なんかね!虫のバザー店もあるって耳にしたんだ!」
「虫のバザー店ってなんだよ気持ちわりぃ!!」
「綺麗なお姉さんが出店するカフェもあるんだって!」
「‥‥行くか、なんたらカンパニー」

妄想を膨らませ、豊は誠人に案内されるがまま、HEBISIRO☆カンパニー☆という場所に向かうこととなる。

一時間ほど電車に乗り、都内の中心にそのバカでかい会社はあった。

「バカでけぇ‥‥」

空を仰ぐように、思わず豊は口にする。隣で早く中に入ろうと誠人に急かされ、

(ってか、なんでこんなとこでバザーなんてやってるんだ?)

外観からは中が見えず、本当にバザーが開催されているのかわからない。豊は疑問を感じながらも誠人の後に続いた。
だが、そんな疑問は中に入って一瞬にして消え去る。
だだっ広いホールの中はすでに賑わっており、祭りのように多くの店が並んでいた。

忍者だか暗殺者だかのコスプレをした男と、和装に身を包んだ小柄な女の子がホールに風呂敷を広げ、せっせとおにぎりを握っている。
具のない海苔を巻いただけの三角おにぎり一個が五百円らしい。

(ただの具なしおにぎりが五百円とか高ぇよ!!)

豊は心の中でツッコミを入れたが、なぜかそのバカ高いおにぎりはバカ売れしていて‥‥
どうやら、おにぎりを握っている和装の、栗まんじゅうみたいな頭をした女の子の姿が健気に見えて、それにほいほい釣られた男共が買っているようだ。
その女の子の相方である、忍者だか暗殺者だかのコスプレ男が何もせず寝ているのが余計に涙を誘うのだろう。

(だが俺は大人のお姉さんが好みだから買わないけどな!)

そう思い、豊はその場を素通りしたーー‥‥瞬間、背後に悪寒を感じる。

「っ!?」

振り向くが、特に何もなくて‥‥
だが、何かおかしい。冷たい何かが自分の首筋に触れているような‥‥

「豊くん、どーしたの?」

その場に立ち止まっている豊に誠人が気づいて尋ねれば、

「や‥‥なんか、首筋に悪寒が‥‥」
「あー!豊くん!首にミミズが這ってるよ!かわいい!ミミズかわいい!」
「は‥‥?」

目を輝かせてそんなことを言う誠人を真顔で見つめ、

「みみ、ず‥‥?‥‥‥‥‥‥うぎゃぁぁぁあああァァァァァあああ!!!!?」

言葉の意味を頭で理解した豊はバザー内を走り出し、

「あっ!待ってよ豊くん!そのミミズ、俺にちょうだい!!」

そんな友人を目を輝かせたまま誠人は追った。

「‥‥」

そんな二人の様子を、どこからか紛れ込んでしまった大きな赤いリボンを頭につけたオバケが見ていたとかなんだとか‥‥


「はぶっ!!?」

全力疾走していた豊は、顔面に弾力のある何かがぶつかって動きが止まる。恐る恐る顔を上げて見れば‥‥

メイド服を着たピンク髪メガネ萌えっ娘の豊満な胸にダイブしていることに気付き‥‥
豊は鼻血を吹き出してその場に倒れた。

‥‥目を覚ました時には萌えっ娘の姿はなく、誠人の膝の上で‥‥

「だぁーっ!なんでお前に膝枕されてんだ!!」
「あっ、鼻血止まった?ラッキースケベだったね」
「おうっ、ラッキー‥‥じゃなくて!そうだ、ミミズは!?」
「走ってる途中で落ちちゃったみたいだよ。勿体ないなー!」

それを聞き、豊は恐る恐る自分の首を触り、違和感がなくなったことに安堵のため息を吐いた。
ホッとしたからか、何か良い香りが鼻を掠める。
香りの方に振り向くと、【喫茶】の文字が目に入った。
なんでもありなバザーだなと思いつつ、

『綺麗なお姉さんが出店するカフェもあるんだって!』

先刻の誠人の言葉を思い出した。

(そうだ、俺はその為について来たんだ!すでにラッキースケベはあったけど!あったけど!)

豊はガッツポーズを取り、喫茶バザーの方へと一目散に向かう。

「一番安いコーヒー下さい!」

と、声高々にそう注文した。
期待に胸を膨らませ、綺麗なお姉さんを拝むためにキラキラと目を輝かせて顔を上げれば、ピンク色したフリフリのエプロンが目に入り‥‥

「お客様。スモールサイズ珈琲が百円になります。アイスですか、ホットですか?」

いかついグラサンがギラリと光り、ツルツルの頭がキラリと光る。

豊はーー‥‥ぶっ倒れた。

「豊くーん!?」

別のバザーで、大量のセミの脱け殻詰め放題をしていた誠人が叫ぶ。


ーーそんな様子を最上階のモニターから見ていた会社の御曹司は、バザーのお裾分けで貰った【ごった煮ジュース】を口から吹き出してこう叫んだ。

「鴉!!一義!!壇上にフリフリピンクエプロン着せて『綺麗なお姉さんが出店するカフェ』とか広告に嘘くそ書いたのお前ら二人の仕業かぁぁぁぁぁ!!!!?ってかセミの脱け殻詰め放題とか誰がそんな出店許可したぁああああ!?ってかなんかモニターにぼやっと青白い顔映ってねーか!?幽霊かよ!!!!?」

一日限りの【ごった煮バザー】は色々おかしいところがあったが、なんとか無事に終わったらしい。
ぶっ倒れた豊はその終わりを見届けることはなかったが、誠人はたっぷりバザーを堪能したとかなんだとか‥‥


目覚めた豊は自室のベッドの中にいて、このバザーが夢だったのか現実だったのか最早わからない。

(まあ、どうでもいっか!!!)

そう思い、二度寝した。


end

6/12バースデー記念に(バザーの日なのでバザーネタ)


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