腐った連中


「バケモノだ‥‥」
「て、天才」
「ワイトよりスゲーじゃん‥‥」

本日全ての授業が終わった教室内ではザワザワと、生徒達の驚愕の声が舞っていた。

チョコも開いた口が塞がらない‥‥と言う風に、ぽかんと口を開け、目を見開かせて隣の席に座るフユミを見る。

全ての科目の問題をフユミ本人が言ったように、先生達はフユミに答えさせた。
フユミは難なくスラスラ問題を解き、答え‥‥
生徒達は「そんなの誰だって解けるって。もっと難問を出せー」と、ヒートアップしてきて。
歴史から数学から科学からーーあらゆる問題を出したが、フユミは全て完璧に答えた‥‥天才だったのだ。

「天才なのに‥‥なぜオカマ」
「勿体ない‥‥」

男子生徒達がボソボソと言う。フユミはそんなヒソヒソ話を気にもせず、

「さーって。今日はもう終わりなのよね?チョコりん、帰りましょ」

と、彼女に促した。

「え、あ‥‥う、うん」

チョコは躊躇いつつも席から立ち上がろうとしたが、

「フユミさん、凄く頭いいのね!」
「フユミさん素敵ー!」

と、女子生徒達が一気にフユミを取り囲む。

「は!?ちょっと、あんたら何よ!チョコりんの姿が見えないじゃない!さっさと退いてよ!」

女子に囲まれてフユミはそう叫ぶが、女子達は退こうとはしない。
いくらフユミがオカマとはいえ、顔は良かった。そして頭も良いとなれば、性癖はどうあれ女子達の注目の的となるのは明らかだ。

チョコはその光景を唖然と見つつ、いつまでも教室に居ても仕方がないと思い、廊下に出る。
すると、廊下にはすでにシェラが居て、

「ひゃー、あの転校生、一気に人気者ね。残念だったねー、リボンちゃん。リボンちゃんのお仲間にしてあげようと思ったのに」

そんなことを言って来た。

「でもあの転校生、リボンちゃんのこと庇ったりしてるから、リボンちゃん女子達に嫉妬されちゃうかもしれないよー?そしたらリボンちゃん、ますます大変だよねー」

チョコはシェラの言葉に俯き、そのまま彼女の横を通り過ぎようとする。

「ねー、リボンちゃん。今年も一人でsnow・e・o・wを祝うのー?せいぜい、今年は一人じゃなきゃいいわよね」

背中にそんなシェラの言葉を聞きながら、チョコは早足で廊下を歩き、学園から逃げ出した。

「え!?あ、チョコりんが居ないじゃない!帰っちゃったのー!?」

ようやく女子生徒の輪から抜け出せたフユミは廊下に出てそう叫ぶ。

「ねー、転校生。あーんまり、リボンちゃんに関わらない方がいいんじゃない?」

すると、シェラがフユミにそう言って、

「リボンちゃんって誰よ」
「チョコのことよ」
「?」

フユミは首を傾げた。そして、

「ねえ、なんで皆してチョコりんにあんな嫌がらせしてるわけよ」

そう聞けば、

「根暗で苛められやすそうな性格してるじゃない?ほら、クラスで一人ぐらいは絶対そんな子いるじゃない。たまたまそれがこのクラスではチョコなわけ‥‥それに‥‥まっ、いっか」

シェラはニコッと笑ってそう答えた。その返答にフユミは眉間に皺を寄せ、

「あんた、嫌な女ね。この歳になってイジメなんかして、自分がカッコ悪いと思わないわけ?」

そう言う。しかしシェラはやはりニコッと笑い、

「転校生‥‥フユタ君だったっけ?」
「フユミよ」
「私はもう帰るから。また明日ね、フユタ君」

シェラはそう言い、大きく手を振って帰って行った。

「‥‥ムカつく女。ホント、どこに行っても腐った奴らしかいないわね」

フユミはそう吐き捨てる。それから、

「ん?そーいえば。あのメガネん、途中から居なくなってたわね」

ーーと。このクラスで一番頭がいいと言っていたワイトの姿が、何時限目かにはなくなっていたことを思い出した。


◆◆◆◆◆

「えーっと。彼と‥‥他に三人コーヒーを注文だったね。はい。淹れたから運んでくれる?」

レトはカップにコーヒーを注ぎながらアルバイトの女性に言った。
アルバイトの女性は困った顔をしつつも、コーヒーカップを四つトレーに乗せる。
まずはスキンヘッドの男‥‥リドの元へ恐る恐るコーヒーを運び直す。

「さ、先程は失礼致しました。コーヒーを、淹れ直して参りましたので‥‥」

アルバイトの女性は頭を下げながら、カップをテーブルに置いた。
しかし、残り三つのカップが乗ったトレーを持ったままその場に立ち尽くしていて‥‥

「あ?何ジロジロ見てんだ?」
「い、いえ。それを淹れた青髪の方から、感想を聞いてきてと言われ‥‥」

そこまで言い、言葉を止める。
リドが口には出さないが、さっさとどっかへ行け、と言う鋭い目を女性に向けていたからだ。

リド自身、本当は怒鳴り散らしてやりたかったし、テーブルをぶん投げたいくらいの気持ちになっていたが、店内には先輩と呼ぶセンドが居て、自分が騒ぎを起こせばセンドの怒りが自分に降り掛かる。

だからこそ、我慢して視線だけで女性を威嚇した。
アルバイトの女性は「もっ、申し訳ありません!」と言い、慌ててリドの席から離れる。

残りの客の席にカップを運び、最後はセンドの座る席に運んだ。


「どう?スキンヘッドの彼、美味しいって言ってたかい?」

厨房に戻って来たアルバイトの女性にレトが聞けば、

「き、聞けるわけがありません‥‥」

と、彼女は青い顔をして答える。

「それは困った。私の淹れたコーヒーが旨かったらそれでチャラにしてくれと言う約束だったからなぁ」

うーん、と、レトは困ったように言うが、表情はそこまで困ってはおらず。

「よし、私が直に‥‥」

そう言い掛けて、言葉を止めた。

ーーチリンと、喫茶店の入り口の扉が開き、客が入ってくる。

「ん?あれ?」

入って来た客を見て、レトは首を傾げながら窓の外を見る。まだ、昼に差し掛かる時刻だ。
店に入って来たのは、一昨日レトとチョコを茶化してきたワイトだった。

(おかしいな、まだ授業のはず‥‥)

レトが厨房からワイトを見ていると、彼は制服姿のまま空いている席に座りメニューを広げる。
しかし、その表情はどこか苛々としていた。

(チョコ君といい、彼といい、今時の子は色々と複雑な時期なのだろうか)

レトがそんなことを考えていると、リドが席から立ち上がる。
立ち上がって、つかつかと厨房の方へ歩いて来て‥‥

「ひっ!お、怒ってる?」

と、店員達はワナワナとして、皆、レトの後ろに隠れてしまった。
リドは厨房の手前で立ち止まり、レトを睨み付け、

「オイ、ヘラ男‥‥」
「へらお?なんだいそれは」

レトは首を傾げて聞き返す。

「お前がヘラヘラしてるからだヘラ男!!お前‥‥何を淹れやがった」

リドはそう叫んだ後、ずいっと空のカップをレトの眼前に向け、

「おや。綺麗に飲んでくれたね」
「だから何を淹れやがったって聞いてるんだ」

リドはちらちらとセンドの方を気にしながら小声で尋ね直した。

「私は普通にコーヒーを淹れただけだが、口に合わなかったかい?」

レトが聞けば、リドは肩を震わせて、

「うっ‥‥旨かったんだよ。お前みたいなヘラ男を褒めたくはないが‥‥なんなんだこれ、本当にコーヒーなのか?」
「おお。良かった。じゃあ、アルバイトさんのこと、チャラにしてくれるんだね」

レトは質問に答えず、ニコリと笑ってそう言った。

「いや、だからおま‥‥」

ーーガシャンッ!!
リドがレトの態度に苛々しそうになった所で、喫茶店の中まで聞こえる程の派手な音が外から聞こえ、続いて騒がしい声がした。

「喧嘩か?」

レトが首を捻れば、

「さ、最近、多いんです」

と、アルバイトの女性が言い「多いって?」と、レトは聞き返す。

「snow・e・o・wがもう時期ありますよね?その‥‥看板や貼り紙を壊したり破り捨てたりする人が、なんだか多くて‥‥毎年、そんなことはないんですが‥‥」
「ふむ」

頷いてレトはリドを見た。

「あ?何だヘラ男。何ジロジロ見てやがるんだ!?」
「いや、別に」

レトはそう答え、

(この男の仲間か何かだろうか。それとも別?一応、調べる必要が‥‥)

ーーバンッ!!ジリンッ‥‥!と、派手な音を立てて喫茶店の扉が開き、鈴が激しく揺れた。
すると、ぞろぞろと数人の男達が入って来て店内を舐め回すように見る。

「この店のお偉いさんは居ますかー」

と、派手な黄色のシャツを着た男が言った。しばらくしても誰も名乗り出ない為、

ーーガンッ!!ガシャンッ!と、男は入り口にあった花瓶を蹴り飛ばす。

「居るか居ないか聞いてんですけどー。言葉通じない人達ばかりなんですかー?」

動作は乱暴だが、その口調は小馬鹿にしたようなものであった。
すると、おずおずとアルバイトの女性一人が少し前に出て、

「あ、あの‥‥他のお客様の迷惑になりますので‥‥」

そう言った。言ってしまった。

(まずい)

レトは瞬時にそう察し、いつでも動ける体勢をとる。

「あー?こっちは質問してんだよネーチャン」

男はそう言いながら、やはり暴力を繰り出そうとした。
拳が振り上げられ、アルバイトの女性は恐怖で身動きがとれずにギュッと目を瞑る。

(本当に、陳腐で腐った連中ばかりだ)

そう思い、男の行動を予測していたレトはすぐに動こうとしたが(おや)と思い、動きを止めた。

「オイ、テメェら。ずかずか入り込んで来て、飲み食いしに来たわけじゃねぇんだろ。テメェらがバタバタしてりゃあ埃は舞うわ、その汚ねぇ面でこちとら気分が悪くなんだよ」

ーーと。入り込んで来た数人の男と同じようにガラの悪い男、センドがいつの間にか男の前に立ち、その胸ぐらを掴んでいた。

「せ、先輩‥‥俺には厄介事起こすなって言ったのに‥‥」

と、リドが青ざめた顔をしてソワソワし出す。
昨日、センドの姿を見ていなかった為、リドとセンドの関係性を知らないレトは首を傾げる。

(‥‥は?な、なんかマズイ現場じゃないのか、これ‥‥)

まだメニュー表を開いたまま、何も注文すらしていないワイトは状況にそう思った。


ーー今は昼時。
ゆったりとしていた‥‥いや、今日はあまりゆったりしてはいなかったが、今現在、昼時の喫茶店はまるで、屍の山と化していた。

店員達、客達‥‥誰一人何も発言出来ず、各々その場から動けず‥‥

「派手にやるね。彼は君の知り合いかい?」

と、レトは先程、リドがセンドを見て『先輩』と呼んでいたのを思い出し、そう尋ねるが、

「う、うるさい黙ってろ!」

リドはソワソワした様子でそう返す。

先刻、派手に店内に入って来た数人の男達。
彼ら全員、床に散らばるように倒れていた。

と言うのも、暴力沙汰を働こうとした数人の男達を、同様に暴力沙汰でセンドが諌めたのである。
たった一人で数人の男を、しかも自身は無傷で倒したわけだ。

「ハァ‥‥」

センドは短いため息を吐き、

「後は店で始末できるだろ、めんどいからオレはもう出るぜ。珈琲は旨かった」

と、彼は男に殴られそうになっていたアルバイトの女性を見て言い、コーヒー代を投げて店から出て行った。
その後を慌てるようにリドが追い、同じく彼も店から出る。

「おや。スキンヘッドの彼、行ってしまったね。まあチャラになったということにしておこうか」

レトはそう言い、

「それで?君達はsnow・e・o・wの看板や貼り紙を壊したり破り捨てたりするんだっけ?なぜだい?」

先程アルバイトの女性から聞いた話を思い出し、床に伏せたままの男達に聞いた。

「‥‥う、うぅ」

しかし、数人の男達はセンドに殴り蹴られた傷が痛むようで、言葉を発するより先に痛みに呻く。

(あのオレンジ髪の男‥‥何者かは知らないが少々やり過ぎだな)

今は情報が聞けそうになく、レトはため息混じりに思った。

それから数分して、店員達は警察に連絡し、駆け付けた警官達は男達を連行した。

「まあ、落ち着いたことだし、私は出るよ」

店員達が普通の業務に戻る姿を見てレトはそう言う。
店員達は何か言おうとしたが、そこで客からの注文のベルが鳴った。

その客は、ワイト。
ようやくこの場が落ち着きを取り戻した為、注文できる状況になったのだろう。
レトは横目にワイトを見つつ、そのまま店を出ようとしたが、

「お前!一昨日の優男!!」

ガタッ!と、レトに気づいたワイトはテーブルに手をつき、驚くように立ち上がった。
レトは軽く息を吐いてからニコリと笑い、

「確かワイト君、だったかな。ヘラ男だ優男だ‥‥近頃の若者は不思議な言葉を使うね」

そう言いながらワイトに振り向く。


◆◆◆◆◆

時刻は夕方に近付いた。
帰り際、シェラに言われたことを胸に抱えたまま、それでもチョコは‘いつも通り’を過ごす。

少し洒落た店が並ぶ通りを歩き、いつも通うパン屋に寄り、同じパンを買う。
そして、通りの噴水広場にあるベンチに座って焼き立ての内にカフェオレと共に飲み干す。

それが済めば、次は洒落た通りにある、小さな小屋みたいな雑貨屋へ。

それが、チョコの変わらぬ日課。

ーー昨日はスキンヘッドの男、リドに絡まれた後、フユミと共に帰宅した為、この寄り道は実行できなかったが‥‥

雑貨屋に入ると、店主である老婆がいつもと同じ挨拶をしてくれた。
優しい声音で昨日店へ来なかったチョコへ心配の言葉をくれる老婆に、チョコはどこか暖かい気持ちになる。

「昨日はちょっと疲れてそのまま帰っちゃって」

チョコはそう言って笑い、店内に並ぶ雑貨やリボンに視線を向けた。

「そうだ、お婆ちゃん。snow・e・o・w、今年は何か欲しいものある?奮発するよ!」

チョコは満面の笑みを老婆に向けた。
それは、老婆以外には向けられることのない、チョコの年相応の素の姿だった。


◆◆◆◆◆

「いやはや。昼からこうやって向かい合ってもう夕方だけれど、私に何か用があるのかい?私にも用事というものがあるのだけどね。それに君、授業の途中で抜け出したのかい?」

と、この二時間程で何度レトはこの言葉を言っただろうか。
あれからワイトがレトに気づき、

『お前‥‥ちょっとそこに座れ!』

と、ワイトに言われ、レトは言われた通り彼の向かいに座った。
だが、ワイトは昼食を注文し、ハンバーグやサラダ、スープをモグモグと食べ、オレンジジュースを飲み‥‥何も話してこないのだ。
そして食べ終わってから、彼は鞄から教科書を取り出し、なぜか勉強を始めた。

レトはワイトに何度も声を掛けたが、彼はそれを無視する。
立ち去ろうかとレトは思ったが、時折ワイトが何か言いたげにレトの方をチラチラ窺う為、そのまま座っておくことにした。

用事はあるが、時間がないわけではなかったから、レトは仕方なく彼に付き合っている。

「そろそろ日が暮れて暗くなる。ワイト君、そろそろ帰った方がいい。ご両親が心配するよ」

レトがそう言えば、ワイトは手にしていたペンを置き、ようやく真っ直ぐにレトを見た。

「‥‥いや、その‥‥」

すると、一昨日のひねくれたような態度ではなく、ワイトはどこかソワソワしている。

「べ、別に、用はないけど‥‥お前、本当にリボン女のこと、何も知らないんだろ?」
「チョコ君のこと?」

レトは首を傾げ、

「ああ、安心して大丈夫だよ。一昨日も言ったように、私はチョコ君に会ったばかりだから。君がチョコ君を好きでも心配する必要は‥‥」
「そうじゃない!!」

ワイトが大きな声で否定した為、他の客や店員達がワイトとレトの席を見た。
ワイトはそれに気づき、慌てて一つ咳払いをする。

「い、いや、その‥‥あまりリボン女に近づかない方がいい」

レトは『なぜ?』と聞き返そうとしたが‥‥
『君がチョコ君のことを好きだから?』などと、もはや茶化そうとは思わなかった。
なぜか、ワイトは青い顔をしている。

「お前、見掛けない奴だから‥‥この町の住人じゃないんだろ?」
「ああ」
「なら、何も知らないなら、あの女に優しくしない方がいい」

レトはしばらく黙り込んでから「うん」と頷き、

「私は意識して誰かに優しくしていないよ。全部、自分の思ったままに動いているだけさ」
「?」
「さて、充分時間はとったし、もう行ってもいいよね」

そう言いながら立ち上がり、踵を返すレトにワイトは、

「あ、あいつは‥‥あのリボン女は‥‥チョコは‥‥病気なんだ!」

絞り出すようにワイトはそう言った。
レトはワイトに振り向いたが、彼はもう、それ以上何も言わない。
ただ、何かに怯えるように、やはり顔を青くしていて‥‥
別に、詮索する意味も必要もない、レトはそう思い、喫茶店を後にした。


「レトさん」

店を出ると、それまで黙っていた剣ーーライトが言葉を発する。

「必要がないのならさっさと店を出るべきでしょうに。時間を無駄にしましたね」
「‥‥」

レトはそれには答えず、

「あのオレンジ髪の男が、昨日スキンヘッドの男と居た奴なんだね?」

そうライトに聞いた。

「ええ、そうです。彼らがどこまで知っていて、彼らの上に立つ者が更に居るのか‥‥わかりませんけどね。それにしても‥‥」

ライトは少しだけ間を置き、

「先程の眼鏡の少年、余程怯えていましたね」
「んー。騒動がこわかったのかな?」
「そうじゃありません。彼は、チョコというあの少女に怯えているように見えましたよ」
「チョコ君に?」

ライトの発言にレトは疑問を口にする。

「でも、あの子達はチョコ君をイジメてるようだし、怯えてるんならそんな相手をイジメられないと思うけど。それに、チョコ君のどこに怯える要素が‥‥病気というのも‥‥いやいや、まあ、今は他人のことを考えている必要はないか」

レトは首を振り、思考を切り捨てた。

「おや、ようやくレトさんにも遅すぎる春が来るかと思ったのですが‥‥そう簡単に切り捨てるようでは、一生、独り身ですね」

と、ライトはそう言う。その発言にレトは目を細め、

「私が一生独り身なのは事実なんだから。そのことを、あなたが一番よく知っているだろう?ライトさん」

今さら当たり前のことを言わないでよと、淡々と言った。


◆◆◆◆◆

「あ、チョコりーん!」
「フユミさん?」

自宅マンションにチョコが辿り着くと、マンションの前にはフユミが立っていて‥‥

「もーう、チョコりんったらん!一緒に帰ろって言ったのに!一人で帰っちゃってさ!あたし、もうプンプンなんだけど!」

そう、両手の人差し指を頭に立てて、鬼の角に見立てながらフユミは言った。

「ご、ごめんなさい‥‥」

呆気にとられながらチョコは小さく謝る。

「もうっ、いいけどさっ。ん?」

すると、フユミはチョコが右手に下げている、鞄とは別のものに目を遣り、

「あれ?ゴミ掃除?どこかのゴミ捨て?」

フユミが首を傾げて聞いてくるので、

「え?何が?」

フユミのいきなりの言葉の意味がわからず、チョコも首を傾げる。

「え?だって、チョコりん、それ‥‥」

フユミがチョコの右手に下げているものを指差せば、

「これ?」

と、チョコはそれを、袋を持ち上げた。

「その、いつも雑貨屋に寄って、買い物するから。お婆ちゃん‥‥あ、店の店主さんが綺麗にラッピングしてくれるの」

と、チョコは袋を持ち上げて小さく微笑む。
フユミはポカンと口を開けていたが、しばらくして、

「へー、そうなんだぁ!可愛いわねん!」

と、笑顔で言ってやった。

「う、うん。ありがとう。じゃあ、私、帰るね」
「ええ。チョコりん、また明日ね!」

マンションの階段を上って行くチョコの背中を、フユミは笑顔のまま見送る。
そして、チョコの姿が見えなくなった頃に、フユミは真剣な表情をした。

(どういうこと?)

フユミは口元に手をあて、しかし、考えてもわかりはしない。

チョコが右手に下げていた、綺麗にラッピングしてくれたと言う袋。
それは、どう見ても、

(ゴミ袋だった‥‥)



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