時期外れの転校生の理由


彼女にとって、毎日が憂鬱だった。
ーーエタニティ学園。
もう三学年だと言うのに、一人も友達が出来なかった。
ご飯は一人、教室の隅で食べて。
グループに別れての授業はいつも余って先生と組んで。
話の輪に入れなくて、部活にも入らなくて。

人生唯一の楽しみは、学園から出た空間だった。
一人で行動し、趣味の店へ通い、家で過ごす時間。
それだけが、楽しみだった。

今日も憂鬱な時間の始まりだ。

「‥‥」

一体いくつなのか。
幼稚な行動ではあるが、チョコの机には落書きが沢山書かれていた。
ヒソヒソ、ヒソヒソと。
女子生徒がこっちをチラチラ見て何か陰口を言っている。
チョコは席に着き、ただ下を向いて押し黙った。

担任教師が教室に入って来て、生徒達はようやく席に着く。
担任であるアネスは気の弱い三十代の女性で、生意気盛りの生徒達は当然、舐めて掛かっていた。

「おはようございます」

いつもの挨拶ーーしかし、

「今日は転校生が来る予定です」

続く言葉は意外なものであった。

「転校生?先生ー、時期外れ過ぎじゃないですかー?」
「二学期もあと一ヶ月しかないし、来年は卒業っすよ」
「ってか、来る予定って何ー?来るんですかぁ?来ないんですかぁ?」

生徒達が口々に言うと、

「皆さん、お静かに。転校生が来る事になっているのですが、その子がまだ来ていなくて‥‥」

アネスが困ったように言えば、ピシャリッーーと、教室の扉が開く。
コツ、コツ、コツ‥‥
ゆっくりした足取りで、見慣れない、恐らく今話題に上がった転校生が教室に入って来た。
その転校生の姿に、ざわついていた教室内はしんと静まる。

憂鬱な気持ちに押し潰されていたチョコでさえも、転校生の姿に目を奪われていた。

染めているのか、肩まで伸びたキラキラの金髪。
つり目でキツそうな印象を与える緑色の目。
スラリと背も高く、スタイルも良い。
制服のスカートは少し短めにしていて‥‥
なんともまあ、クラスメート全員が言葉を失い見惚れる程の美少女だった。
転校生である彼女はゆっくりと口を開き、

「初日早々、遅刻してごめんね!皆、初めまして、フユミよ、よろしくねん!」

ニコリと、かわいらしく気軽な挨拶を‥‥

「ん?」
「え?」
「!?」

転校生ーーフユミの挨拶に生徒達は違和感を感じた。
すると、担任であるアネスが、

「フユミ?あら?あなたフユタ君でしょう?それになぜ女子制服を着ているの!?」

なんて言って、

「やだぁ、せんせっ。あたしはれっきとした乙女なんだからん!それで?あたしはどこの席に着いたらいいの?」

‥‥と。全員が見惚れた美少女転校生像は、その男声で一瞬にして崩れ去っていく。

「オカマ、だと‥‥」
「見た目はあんなに可愛いのに、声が‥‥」

ぼそぼそと、男子達の落胆の声がした。

「あら、あそこが空いてるわ。せんせっ。あたし、あそこでいいわよね」
「あ、ちょっ、フユタ‥‥フユミさん!?」

フユミはアネスの指示を待たないまま勝手に空いている席に向かう。それは、チョコの隣だった。

「‥‥っ」

自分の席の隣にフユミが向かって来る為、チョコは慌てて机に書かれた無数の落書きを腕で覆い隠す。

「よいしょ」

フユミはチョコの隣の席に着き、

「よろしくね!」

と、チョコに挨拶をして、

「よ、よろしく‥‥」

机を覆い隠しながらチョコが挨拶を返すので、フユミは首を捻った。

「あら?」

さすがに机全面を覆い隠すのは無理で、落書きの一部がフユミの目に入る。

「それって‥‥」

察するように声を掛けてこようとするフユミだが、チョコは初対面の相手にこんなものを見られた羞恥心が湧き上がり、

「っ‥‥わ、私、体調が悪いので‥‥帰ります」

消え入りそうな声でチョコは席から立ち上がり、鞄を持って教室から出て行く。

「えっ!?チョコさん!?」

アネスはいきなりの生徒の行動に驚き、教室を出て行ったチョコの名前を呼ぶしか出来なくて。教室内ではクスクスといった笑い声や、ヒソヒソ話が絶え間なく鳴った。
フユミは横目でチョコの机を覗き込む。

『根暗』『ブス』『リボンちゃん』『ぼっち』『ゴミ女』‥‥等々、その他無数にそのような幼稚ではあるが、中傷の言葉が机中を覆っていた。


◆◆◆◆◆

(最悪、最悪、最悪だ!)

チョコは腕で次々に溢れてくる涙を拭いながら街中を走る。
時間の問題ではあったが、初日早々、転校生に自分が苛められていることがバレた。

あんな急に教室を飛び出して、次に学校に行った時、生徒達はどんな苛めを考えているだろうか、何を言われるだろうか。
このまま自宅のマンションに帰ろうかと思ったが、近所の人に見つかれば早退したのかなんなのか噂されそうだ‥‥それも、キツい。

そう思いながらチョコは人気のない路地に入り、コンクリートの壁に凭れ、気持ちを落ち着かせようと涙を拭い続ける。

「で、首尾はどうなんだよ」
「はい、この街は簡単そうですね。毎年順調にsnow・e・o・wを迎えている為か、我々の存在なんて頭にないでしょうし」

路地の奥の方からそんな会話が聞こえて来て、チョコの涙はピタリと止まった。

「ったく。呑気なこった。そのsnow・e・o・wを廃止させるこっちの身にもなれっての。んじゃ、オレは戻るから、後は任せたぜ。テメェはキレやすい性格してんだ、厄介事起こすなよ」
「大丈夫ですよ。お気をつけて」

そこで、路地の奥から聞こえた男達の会話は終わる。

(え?snow・e・o・wを‥‥廃止!?)

聞いてはいけないような会話を耳にしてしまい、チョコは慌てて路地を飛び出そうとしたが、

「‥‥ん?なんだ、お前は」
「!」

それは『お気をつけて』と、もう一人の男を送り出した男の声だった。

チョコが振り向けば、真後ろには黒服に身を包んだ、顔に幾つか傷のあるスキンヘッドの男が立っていて、その男が、

「お前、まさか話を聞いてたんじゃ‥‥」

厳つい目をチョコに向けて聞いてきたので、チョコは声も出せず、ただ首をブンブンと横に振る。

「そうか。でもまあ『任せた』と言われた所だし、ちょっとでも怪しいものは消しとくか」

そう言った男のズボンのポケットから、ギラリと輝く小型のナイフが取り出された。
逃げなければいけないと理解しているのに、チョコの足は恐怖で震えて動かない。
スキンヘッドの男はナイフをチョコの胸元でちらつかせ、

「そうそう、大人しくしてくれてれば楽に済むからな。厄介事起こすなって言われてるんだ、静かにしてろよ」

チョコが抵抗できないのを理解して楽しげに言ってくる。

「‥‥ひっ、た、助け‥‥」

か細いチョコの声は、人気のない路地では誰にも届かない。

「じゃ、こっちも忙しいんで、早めに‥‥ぐえっ!?」

ーーぼすッ!!という鈍い音と、男の呻き声が同時にして、チョコは驚いた。
男の顔面に分厚いノート‥‥否、教科書がめり込んでいるではないか。

「もう、ダメじゃない!こわーい男に襲われそうな時は『イヤーン、キャー!助けてー!』って、ちゃんと叫ばなきゃ!」

チョコの背後でそんな野太い声がして‥‥

「え‥‥ど、して‥‥」

思いも寄らない相手の姿にチョコの驚きは増した。

「まあ、あたしが居るからにはもう大丈夫よん」

それは先程の転校生フユタ‥‥否、フユミだった。

「話は後よ、とりあえず逃げましょ」

フユミが言うが、

「っ‥‥待てよ学生共、ってかカマ野郎!人様の顔に教科書投げ付けやがって!」

ナイフを握ったままのスキンヘッドの男は、フユミの行動に頭に血を昇らせてしまっていて、

「乙女にカマ野郎ですって?デリカシーのないハゲね。それに、か弱い女の子を襲おうとしたあんたが悪いんでしょ」
「‥‥っ」

相手を挑発するフユミの腕をチョコは思わず掴み、危険だと頭をブンブン必死に振った。
相手はナイフ、こっちは丸腰なのだから。
しかし、フユミの挑発に男は当然乗ってしまい、

「‥‥いい度胸じゃねえかガキがぁあぁあ!!」

勢い良く男はチョコとフユミの方にナイフを向けて駆け出してくる。
どこに自信があるのか、フユミはチョコを庇うように前に出て、チョコは頭を抱えてギュッと目を閉じた。

ーーギンッ!

金属の擦れる音と、

「やめないか」
「やめやがれ馬鹿が」

そんな二つの声が同時にする。
チョコが恐る恐る目を開けて状況を確認すれば‥‥

スキンヘッドの男の背後に、派手なオレンジ色の長い髪を一つに束ねた長身の黒服の男がいて、その男はスキンヘッドの男の背を足蹴している。

更にはスキンヘッドの男の前には黒いコートを身に纏った‥‥昨日チョコが出会ったレトが居て、レトの手には短剣が握られており、スキンヘッドの男のナイフを受け止めていた。

その三人はしばらくそのままの体勢で固まり‥‥やがてスキンヘッドの男がナイフをゆっくりと下ろし、背後に立つ長身の男に勢い良く振り向いて、

「す、すみません!でも!か、会話を聞かれたかも‥‥」

まるでパニックになったかのように状況を説明しようとして、

「オレは騒がしくなったから戻って来ただけだが、オレ達は聞かれちゃマズイ話をしてたか?事を大きくしてんのは誰だ?厄介事起こすなって言ったばかりだよな?」

スキンヘッドの男とは対照的に、長身の男は冷静に、だが威圧を含む眼差しで言葉を返し、スキンヘッドの男は口をパクパクさせていた。

「あのー、あたし達、ほんっと何も知らないのよ!そのハゲが急に襲って来たの!だから、カッコいいお兄さん、あたし達もう行ってもいい?」

痺れを切らすようにフユミが長身の男に言えば、

「ああ。連れが迷惑掛けたな、オレもコイツと話しなきゃなんねーんで、行ってくれりゃ助かるわ」

長身の男がそう言う。
それを聞いたレトも短剣をしまい、チョコとフユミの元へ歩き、

「また会ったね、チョコ君。立てるかい?」

腰を抜かしてしまったチョコに手を差し伸べた。
チョコはこくりと頷き、レトの手を取って立ち上がり、フユミと共に路地から出る。
去り際、路地から悲鳴が聞こえたが、三人は振り向くことなく人気のある場所に出た。


「聞きたいことは結構あるけれど、一番の問題はこんな朝から学生の君達がなぜここに居るか、だよね」

レトはチョコとフユミに自販機で買ったジュースを手渡し、公園のベンチに腰を掛ける。

「乙女には色々あるのよ!って言うか、あなただって誰よ?せっかくあたしがあのハゲをこらしめようとしたのに」

フユミが言い、

「あ、あなたもなぜ、あの場に‥‥?」

次にチョコがフユミに疑問を投げ掛けた。
その纏まりのない様子をレトは見て、

「どうやら、君達が話をしなきゃダメみたいだね」

そう言いながらベンチから立ち上がり、

「私はもう行くよ。さっきみたいなことにならないよう気を付けてね」
「あ‥‥」

チョコはレトに声を掛けようとしたが、レトは行ってしまった。
偶然レトが通り掛かったとはいえ、レトがスキンヘッドの男のナイフを止めていなければ、フユミと自分はどうなっていたことか。
お礼を言い逃し、チョコは複雑な気分になったが、

「さて、あたしもあんたに話があったからちょうどいいわ」

と、フユミが言った為、チョコは首を傾げた。

「私に、話?」
「単刀直入に言うけど、あんた、苛められてるのよね?」

言葉通り単刀直入に言われ、チョコの顔は見る見る内に青ざめる。

「理由は知んないけど、あんたのその態度がダメなんじゃない?まるでイジメて下さいーって、自分から言ってるみたいなもんよ?」
「あっ‥‥あなたには関係ないじゃないですか」

オブラートに包まないフユミの発言に、チョコは俯いてそう返し、

「だ、第一、初対面のあなたは私のこと何も知らないくせに、あなたに何か言われる筋合いは‥‥」
「あるわよ」
「!?」

何の筋合いがあるんだと、チョコは困惑した表情で顔を上げた。

「来年卒業でしょ?二学期も来月まで。三学期が終われば卒業。こんな時期に転校してくるなんて、妙と思わない?」

それはチョコ以外のクラスメートも勿論思ったことである。

「まあ、実を言うとね、あたしってこんなに可愛いけど、実は男なのよ‥‥」

と、フユミが悲しげな表情をして言うが‥‥

(え‥‥そんなの知ってるけど、声で)

チョコは雰囲気を壊さない為に心の中でツッコミを入れた。

「前の学校では、まあ、一応ね、男として通ってたんだけど‥‥ずっと好きな人が居たのよ」
「そ、それは、女の子ですか?」

チョコが聞けば、

「あんたねえ!なんで乙女のあたしが女の子を好きになるって思うわけ!?あたしの恋愛対象は当然、男性に決まってるじゃない!もうっ、変なこと言わないでよねん!」

と、フユミが凄い剣幕をして怒ってきた為、チョコはもう何も言わないでおこうと決める。

「もうっ、まったく。えーっと、それでね、来年卒業だから、それまでにあたしは意中の彼に告ろうと思ったわけ。休日に呼び出して、あたしは思い切りおめかしして行ったのよ!そしたら‥‥」

再びフユミは悲しげな表情をし、

「あたしの意中の彼はあたしの告白を冗談だと笑い飛ばしたのよ‥‥」
「えっと‥‥あなたはずっと男として学校に通ってて、その意中の彼さんは、その告白の時に初めてあなたの女装‥‥じゃなくて、あなたが乙女だと知ったんですよね?」

チョコはフユミの逆鱗に触れぬよう、ゆっくりと言葉を選んで尋ねた。

「まあ、そーゆーわけ。で、休み明けに学校に登校したら、あたしの意中の彼がね‥‥クラスメート全員にあたしが告白したことを話してたわけ。皆、あたしをオカマだのキモいだの罵って‥‥ずっと友達だった子達も一緒になって言うのよ。あんたと同じように、机に散々悪口だって書かれたわ」

その話を聞き、理由は違えども、フユミも同じように苛めを受けたのかと思うと、チョコはちゃんとフユミの話を聞こうと思ったーーのだが、

「でもね、あたしはあんたとは違うわよ」
「え?」
「あたしはねん、もう、その日さんっざん!教室で暴れてやったわよ。まず、意中の彼をぶん殴り、机に落書きした奴等を締め上げて、あたしを笑った奴一人一人に説教してやったわ!」
「‥‥」

フユミの話を、チョコは絶句して聞くしかない。

「まあ、それで退学処分食らっちゃってね。実はあたし、別の大陸から船に乗って引っ越して来たのよー。あたしが散々暴れたりなんだりしちゃったから、パパとママがもうここでは暮らせない!ってなって、遠くのこの大陸まで越して来たってわけ」

時期外れの転校生の転校理由に、チョコはなんて言葉を掛けたらいいのか全くわからなかった。

「だからね、あんたも強くなりなさい!言われっぱなし、やられっぱなしなんて悔しいでしょ!?どうせ来年卒業でクラスメート達とはおさらばなんだから!最後くらい強気でいっちゃいなさいよ!」

なんて、チョコが苛めを受けている理由も大まかに予想しているだけではあるが、フユミは話を止めない。

「それで?あんた友達はいるの?」
「‥‥いませんけど」
「えー!ウソー!?よくそれで登校拒否せず通ってるわね!」

フユミは冗談か本気か、大袈裟に驚いてみせて、

「なら、ちょうどいいじゃない。あたし達、友達になりましょうよ!」
「‥‥え」

チョコが無意識にひきつった表情をした為、

「何よ、その顔。嫌なの?あんただって友達ぐらい欲しいでしょ?」

フユミにそう言われ、

(友達は欲しい‥‥けど、この人、オカマなんだよね?一緒に居たら、余計に私、周りから変な目で見られそう‥‥)

そんなチョコの不安を露知らず、

「そういえば、あんたの名前を聞いてなかったわね。あたしの名前は自己紹介したけど、フユミよ。あんたは?」
「‥‥チョコ」
「ふーん、可愛い名前じゃない。チョコりんって呼ぶわ」
「え‥‥」

あだ名なのかなんなのか。
妙なネーミングセンスにチョコは頭痛がしてきた。

「そういえば、さっきハゲからあたし達を助けたあの青髪の暑苦しいコート着た人は?知り合いみたいだったけど、友達じゃないの?」

次にレトの話を振られ、

「あ、あの人は昨日偶然会って、さっきも偶然会っただけの人で‥‥」
「そうなの。でも、あの人、妙よね」
「妙?」

フユミはピンっと人差し指を立て、

「だって『一番の問題はこんな朝から学生の君達がなぜここに居るか』とかあたし達に言ったじゃない?あの人だって見た感じあたし達と変わらない歳のはずよね?あの人も学校サボってるんじゃないの?」

フユミの言葉に、

(あの人は確か‥‥久々にこの街に来たって言ってたし、記憶喪失で旅を‥‥ん?)

チョコはそこまで考えて首を捻り、

(そういえば、記憶喪失なのに久々に来たとかって、それは覚えてるのかなぁ?まあ、いいや)

疑問を抱いたが、すぐに些細なことかと考えを切り捨てる。

「それにあの人、堂々と短剣を持ってたじゃない?ながーい剣も背負ってたし!剣なんて持ってるの警察官ぐらいよね。オモチャかもしんないけど‥‥でもハゲのナイフを受け止めてたし‥‥あたしの見立てによれば、あの人、かなーり怪しい人よ」

なんて、フユミはほんの数分だけ一緒に居たレトをそう称した。
フユミの話を聞きながら、チョコは先程レトが奢ってくれたジュースをぼんやりと見つめる。


◆◆◆◆◆

しばらく街中を歩いていたレトは広場のベンチに腰掛けた。

「それよりレトさん?」

そう、レトの背後ーー否、レトの背負う剣から澄んだ青年の声が発せられる。

「さっき貴方が対峙した黒服の男達。多分、あれが元凶の一部でしょう?あのまま放っておいて良かったのですか?」
「たぶん、あのスキンヘッドの男は上からの指示に従ってるだけだと思うよ。色々知り過ぎている大本が居るはずだ」
「そうでしょうね。けど‥‥」

剣は呆れるように、だが、せせら笑うような声音をして、

「ナイフを持っていた男は暴力事が好きそうですし、それを止めたもう一人の男‥‥あれは危険な感じがしましたがね」
「‥‥」

レトは横目で背負っている剣を見遣り、

「‥‥もう一人、居たかい?」

そう聞いた。

「居たじゃないですか。貴方が短剣で男のナイフを止めた時、その背後に派手なオレンジ髪をした男が」
「あー‥‥そういえば、声はしてたような‥‥スキンヘッドの男がでかくて、私からは見えなかった」
「‥‥。そうでしたね、レトさんはお小さかったんでしたね」

と、剣に言われる。
レトの身長はギリギリ150cmある程度だ。

「‥‥ライトさん、その辺に投げ捨てるよ?」
「ええ。そうしていただけた方が私としても自由になれて助かります」
「‥‥」

何を言っても淡々と言葉を返して来る剣ーーライトに口負けし、

「さて。とりあえず動こう。チョコ君が言っていたsnow・e・o・wの日までになんとかしないとね」

レトはベンチから立ち上がり、

「全く。この街に手を出そうなんて、困った話だよ。誰かさんみたいだ。ねえ、ライトさん?」

レトが嫌味に笑って言えば、

「相変わらず嫌味も陳腐ですね、詰めも甘い。もう一度、学校に通った方がいいのではありませんか?」
「‥‥」

ライトの言葉にレトは肩を震わせ、

(誰のせいだ、誰の)

と、口に出しても相手から嫌な正論が帰ってくるだけだと思い、レトは唇を結んだ。

「まあ、いいさ。この街に手を出そうものなら、その人達はきっと後悔することになるだろうからね‥‥この街に今潜んでいるものを、人々は知らないから」

レトがそう言って広場から立ち去ると、

「ママー、昨日、風船とってくれた人!今、一人で喋ってたね!」
「しっ!見ちゃいけません!」

昨日、レトに風船を取ってもらった幼い男の子と母親や、広場に居た人々には、レトが独り言を言っているようにしか見えない。

そんな一方で‥‥

「え!?snow・e・o・wがない!?」

チョコは驚きの声を上げていた。

「そうよん。だからビックリしたわ。この街ではまだ続いてるなんて」

そう、フユミは言う。



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